影の長さで測る距離
卒業したら別れよう、と彼女が言った。
放課後の河川敷。制服の影が、草の上へ長く伸びていた。
彼女は県外の大学へ行く。僕は地元に残る。
「遠距離、向いてないと思う」
「やってもないのに」
「やる前だから言える」
彼女は夕日を見たまま、こちらを向かなかった。
本当は、不安なのだと分かった。連絡が減ること。新しい友達ができること。会えない間に、好きだった時間まで薄くなること。
僕も同じだった。だから否定する言葉ほど、軽く聞こえそうで怖かった。
「じゃあ、今日で終わり?」
「卒業式まで」
「期限付きなんだ」
冗談にしようとしたが、笑えなかった。
僕らの影は、体より先に近づいていた。僕が一歩動くと、影の手が彼女の影へ触れる。
「影は遠距離できないな」
僕が言うと、彼女は足元を見た。
「夕方だけでしょ」
「じゃあ毎日夕方に電話する」
「無理な日もある」
「無理なら次の日」
「続かなかったら?」
「そのとき終わればいい」
彼女がようやくこちらを見た。
「終わるのが怖いから、先に終わらせるの?」
問い返すと、彼女の目に涙が浮かんだ。
「だって、今ならきれいに終われる」
街はオレンジ色で、風も弱く、映画の最後みたいだった。
きれいな終わりには最適だった。
でも僕は、彼女の手を取った。
「きれいじゃなくていい」
「喧嘩するよ」
「する」
「電話忘れる」
「怒る」
「好きな人、できるかも」
「そのとき聞く」
彼女は泣きながら笑った。
卒業式までに別れる約束は、そこで破棄した。
代わりに、永遠の約束もしなかった。
春から毎週水曜の夜に電話する。無理なら一言送る。会えた日は、影の写真を撮る。
それだけ決めた。
一年後、電話は毎週ではなくなった。
喧嘩もした。
一度、本当に終わりかけた。
それでも、彼女から一枚の写真が届いた。知らない街の夕暮れに、長い影が一つ。
僕は地元の校門前で、自分の影を撮って送り返した。
二枚を並べても、影は触れない。
けれど距離は、影の長さだけでは測れないと、もう知っていた。