押し付けられた高負荷

《10:04 着信区分:高負荷》

「三部署も回されたんだぞ。責任者を出せ!」

「お待たせして申し訳ありません。瀧野瀬玲が、ここから最後まで伺います」

《11:09 通話終了》

《再入電見込み:低》

 客は最後に、「最初から君につながればよかった」と小さく言った。玲は褒め言葉を評価欄へ書かず、次の担当者が迷わないよう解決手順だけ残した。

《11:10 休憩申請》

《11:10 管理者により却下》

《11:10 高負荷着信を手動転送》

「解約じゃ済まない。会社まで行くから名前を言え」

「瀧野瀬です。まず、停止しているサービスの状態を確認します」

 玲は脅しの言葉を受け流さず、危険発言として別窓口へ共有した。その間にも次の赤い着信が待機列へ積まれた。

 転送者はチーム長の兼坂道隆だった。

「声が落ち着いてるんだから、得意だろ」

 高負荷の通話は本来、全員で交代する。玲の回線だけ赤い着信が続いた。対応が長引くほど処理件数は下がり、兼坂は朝礼でその順位を読み上げる。

「最下位。平均へ戻すまで休憩なし」

「割当が偏っています」

「被害者ぶる人間は顧客対応に向かない」

 同僚が代わろうとすると、兼坂は「訓練だ」と玲へ戻した。チームの共有掲示には、玲の低い件数だけが黄色で貼り出され、高負荷の印は消されていた。夕方、ヘッドセットを外した耳の後ろには赤い線が残った。

《四半期評価会議》

 兼坂は玲の契約終了を提案した。

「満足度も件数も基準以下です」

 地域統括の品質担当は、編集された集計表ではなく、交換機の生データを開いた。

 高負荷通話の七十九パーセントが、兼坂の手動操作で玲へ送られている。条件をそろえて再計算すると、玲の処理速度は一位。高負荷だけでも再入電率は最小、解約を止めた件数は最多だった。

 兼坂が自分の成果にした通話は、玲が解決したものの最終クリックだけを付け替えていた。

「信頼して任せただけです」

 地域統括が赤い鍵を押した。

《兼坂道隆 回線振分・評価権限:停止》

《次期チーム長面接・第一候補:瀧野瀬玲》