持ち主を刻む真鍮荷札

迷宮門前の古道具店〈戻り荷〉では、真鍮の荷札が一本だけ売れ残っていた。

店主ルフェンは「盗難防止」と札に書いたが、客は魔法鞄や封印箱ばかり欲しがる。紐で結ぶだけの古札など、誰もまともに見向きもしない。

荷運び人ジャディルが入ってきたのは、衛兵に追われるような足取りだった。

「明日の正午、窃盗罪で右手を切られる」

彼の無限鞄から、攻略隊長の宝石が見つかった。ジャディルは入れていないと言うが、無限鞄は中で品物が混ざり、誰がいつ入れたか記録しない。隊長は未払い賃金を帳消しにする代わり、罪を認めろと迫っている。

「鞄の過去を見られる道具はあるか」

「過去は見られません。これから嘘をつけなくする札なら」

ルフェンは真鍮札を無限鞄の口へ結んだ。

「中へ入った物の持ち主を、札が覚えます。持ち主とは、最後に触れた者ではなく、正当に得た者です」

試しにルフェンが自分の銅貨を入れる。札には《ルフェン》と刻まれた。ジャディルが自分の靴を入れると《ジャディル》。二つを同時に取り出しても文字は消えない。

次に問題の宝石を入れると、札に現れた名は隊長ではなかった。

《王立迷宮管理局》

宝石自体が、攻略隊長の盗品だった。

さらに鞄の底に残っていた金粉へ触れると、《報酬受領者・ジャディル》という文字が浮く。隊長が払わなかった運搬報酬まで、迷宮の所有判定では彼のものになっていた。

翌日、審理を終えたジャディルが戻った。隊長は横領と証拠偽造で逮捕され、切り落とされたのは彼の階級章だったという。

「俺の手は残った。賃金も戻った」

彼は値札分をきっちり数え、その横へ未払い賃金の一割を置いた。

「多いです」

「荷札がなければ、一割どころか手まで失っていた」

ルフェンが返そうとすると、ジャディルは鞄の口を閉じた。

「正当に得た金だ。誰へ渡すかも俺が決める」

真鍮札を輝かせた鞄が店外へ消える。ルフェンが空になった釘へ《売却済》を掛けると、二度目のドアベルが鳴った。