斜陽の卒業アルバム

卒業二十年目の同窓会で、教師になった女性は母校へ戻った。

皆が体育館へ集まる中、一人で旧教室へ入り、卒業アルバムを開いた。

夕日が窓から差し、集合写真の右端を照らす。

そこに写る亡くなった同級生が、机の上へ腰かけて現れた。

「先生になったんだ」

「見れば分かるでしょう」

「昔、学校嫌いだったのに」

同級生は、夕日の帯が卒業写真を覆っている間だけ教室にいられた。

二人は高校最後の一年、ほとんど口をきかなかった。

同級生は病気を隠し、卒業後すぐ入院した。

女性は、急に距離を置かれたことへ腹を立て、見舞いにも行かなかった。

「私、何かした?」

二十年越しに尋ねる。

「した。未来の話ばかりした」

「それが悪いの?」

「私には来ない未来だったから、羨ましかった」

同級生は、教師になる夢、旅行、恋愛の話を聞くたび、自分だけ教室へ置いていかれる気がした。

だから避けた。

女性は自分が嫌われたと思い、さらに無視した。

「言ってくれれば」

「言ったら、夢の話をやめたでしょう」

「当たり前」

「それが嫌だった。聞きたくないけど、やめてほしくもなかった」

矛盾している。

けれど、十七歳ならそのまま抱えるしかなかったのだろう。

机の中から、古い封筒が出てきた。

当時埋めるはずだった時間箱の手紙。

同級生の封筒だけ未投函で、宛名は「二十年後の私」。

「読んでいい?」

「私に二十年後はない」

「今ここにいる」

「夕日ぶんだけね」

封筒を開く。

中の紙は白紙だった。

同級生が笑った。

「書けなかった」

「何か書いて」

「今さら?」

「私が読む」

同級生は鉛筆を取り、

「先生になったあなたへ。学校が嫌いな子を、急いで好きにさせないで」

と書いた。

女性のクラスには、教室へ入れない生徒がいる。

いつも「卒業すれば選択肢が増える」と未来を話し、励ましていた。

それが届かない日もあることを、知っていたはずなのに忘れていた。

夕日の帯が写真から外れ始める。

「さよなら」

女性が言う。

同級生は首を振った。

「同窓会でそれは暗い。行ってらっしゃいでいい」

姿が薄れた。

「行ってきます」

女性が答えると、教室には白紙の残りと鉛筆だけがあった。

翌週、生徒へ未来の話をせず、

「今日はどこならいられる?」

と尋ねた。

生徒は図書室を選んだ。

同級生の手紙は学校へ寄贈せず、自分の机へしまった。

過去を展示するためではない。

今日の教室で、来ない未来を無理に見せないために。