日曜の息子
母が同じ話を繰り返すようになってから、息子は見舞いを減らした。
施設へ行けば、
「学校はどう」
と子ども扱いされ、
「お父さんは仕事?」
と亡くなった父を待たれる。
訂正するたび二人とも疲れた。
カレンダーの日曜へ「行く」と書き、そのまま訪ねずにいると、同じ服のもう一人の息子が施設へ現れた。
予定に書いて果たさなかった訪問だけ、代役が一時間務める。
罪悪感に負け、息子は施設の廊下まで行った。
部屋にはもう一人の自分が座り、母の話へ優しくうなずいている。
「学校、楽しい?」
「楽しいよ」
「お父さんは?」
「仕事だよ」
代役は訂正せず、母の記憶へ合わせた完璧な返事をした。
息子は楽になった。
自分より、母を傷つけない相手だった。
母が突然、代役の手を叩いた。
「あなた、誰」
代役が微笑む。
「息子だよ」
「違う。あの子は、三回目には『もう聞いた』って怒る」
廊下の息子は足を止めた。
母は覚えていないだけではなかった。
息子が苛立つことも、昔からの関係の一部として体に残していた。
優しすぎる代役は、母にとって知らない人だった。
息子は部屋へ入った。
代役が消える。
母は二人いたように見えたことを忘れ、また尋ねた。
「学校はどう?」
息子はため息をつく。
「もう卒業した。何十年も前」
母は困った顔をした。
息子は言いすぎたと思い、
「でも今日は休み」
と付け足した。
母が笑う。
「じゃあ、ゆっくりしていきなさい」
一時間、同じ話を五回聞いた。
三回目には、
「それ、さっきも聞いた」
と言った。
母は、
「なら上手に答えなさい」
と昔と同じ調子で返した。
帰り際、母は息子の袖をつかんだ。
「次の日曜、来る?」
息子はすぐ約束せず、予定を確かめた。
「再来週なら」
「忘れるかも」
「カレンダーへ書く。でも、行けないなら消す」
それから、果たせない予定を残さなくなった。
見舞いは多くない。
会えば苛立つ日もある。
それでも代役に優しさを任せず、本人の不完全な一時間を持っていった。
母が覚えていなくても、二人の関係は、怒り方まで含めて代行できないものだった。