最初の一撃をくれた子
千景の槍が古竜の喉を貫いた。
巨体が崩れ、討伐隊から歓声が上がる。だが報酬欄に表示された所有者は、千景でも隊長でもなかった。
【世界核の所有権】
【取得者 村人NPC《トト》】
【討伐報酬は、対象へ最初に攻撃した者へ与えられる】
珍しい仕様ではない。隊長は報酬を独占するため、毎回誰より先に矢を当ててきた。今回は古竜の演出が終わる前に、トトの小石が鱗へ当たった。たった一点の傷も残さない攻撃だったが、最初という事実だけは、百万人分の火力でも上書きできない。
「何だこれは!」
隊長が少年をつかみ上げた。戦闘開始直前、村からついてきたトトが古竜へ小石を投げたのだ。ダメージは一。皆、邪魔だと笑った。
「NPCを殺せば権利は次へ移るはずだ」
剣が抜かれる。
千景はその前へ槍を差し入れた。
「最初から分かってたんじゃないか?」
古竜の巣の壁には、歴代所有者の名が刻まれていた。どれも高位プレイヤー。その下で村人たちは税として経験値を奪われ、何度死んでも同じ労働へ再配置されてきた。トトが石を投げたのは勇敢だからではない。竜の爪に、徴税で連れていかれた姉の首飾りを見つけたからだった。少年は竜を倒したかったのではない。奪われた姉の名を、世界の所有物一覧から取り戻したかったのだ。
世界核は、この世界の設定を書き換えられる権利だ。隊長は外へ帰るためと言ったが、説明には帰還の文字などない。
「どけ、チカゲ。ゲームの資産をNPCに渡す気か」
「もう渡ってる。俺たちが奪おうとしてるんだ」
トトは震えながらも、報酬画面へ指を伸ばした。選択肢は一つだけ。
【この世界の住民を、所有物として扱わない】
少年が押す。隊長の剣も、千景の槍も、古竜の死骸も一瞬だけ数字へ変わった。
【メインクエスト《世界核を獲得せよ》達成】
【報酬受領者 トト】
【隠しクエスト《最初の一撃を守る》達成】
【世界の所有者を《プレイヤー》から《住民》へ変更しました】
【以後、プレイヤーは客人としてログインします】