最後の一皿を残す人

補給係ベアは、乳入りのスープを飲むと腹を壊す。

遠征中の食卓で黙ってパンだけを食べていた日から、騎士団長ローランは彼女の分だけ別鍋にした。

「今日も豆の澄まし汁です」

料理番が説明するより先に、ローランが蓋を開けて香りを確かめる。普段は兵糧の味に興味を示さず、「食べられるなら十分」としか言わない男だ。

「塩が強くないか」

ベアは一口飲む。

「ちょうどいいです」

彼は頷き、自分の食事を始めた。ベアの皿が届くまで待つのも、いつものことだった。

王城へ帰還した夜、勝利の晩餐が開かれた。

厨房長は全員へ同じ乳粥を配り、「団結の一皿」と称した。

ローランはベアの皿だけ下げさせる。

王侯たちが眉をひそめた。

「一人だけ別料理では、団結を損なう」と大臣が言う。

「損なわない」

「ならば彼女も一口くらい我慢を」

ローランの視線で、大臣は口を閉じた。

宴の最後、国王が宣言する。

「補給を支えたベアを、騎士団長の私設家令として永久雇用する。今後は王都を離れぬように」

ベアは驚いた。

「お断りします。私は来春、故郷の食料庫を立て直す約束があります」

国王は笑う。

「団長に大切にされているのに、田舎へ戻る必要があるか」

「大切にされることと、行き先を決められることは別です」

ローランは永久雇用書を受け取った。

「破棄」

「団長、お前のための人材だぞ」

「彼女のためではない」

ベアは尋ねる。

「故郷へ戻っても、騎士団との取引を続けられますか」

ローランは一度頷く。

「契約を作る。年ごとに更新」

ローランはベアの帰郷を寂しいとも、残ってほしいとも口にしなかった。代わりに故郷までの補給路を調べ、乳を使わない保存食を荷に加えるよう命じる。引き留めずに送り出す準備こそ、彼の示した執着だった。

国王の前で、彼は永久雇用書を火へ入れた。

「ベアは来春に帰る。引き留めるな。彼女へ用意する最後の一皿は、選別ではなく、帰る日までの当然の食事だ」