枕元の米粒
母を亡くした家で、父は三人の子どもを育てた。
夕食はいつも四人分あった。
父は「昼に食べすぎた」と言い、自分の皿から肉や魚を子どもへ分けた。
ある朝、末の子が父の枕元に白い米粒を一つ見つけた。
掃除しても、翌朝また一つ。
姉の枕元に出る日も、兄の枕元に出る日もあった。
その家では、自分の食事を誰かのためにこっそり減らした人の枕元へ、翌朝、米粒が一つ置かれた。
姉は弁当のおかずを友達へ分けていた。
兄は部活帰りの弟へパンを残していた。
末の子は、父が食べるようプリンを冷蔵庫へ戻した夜、枕元に米粒を見つけた。
一番多いのは、父だった。
子どもたちは会議をした。
父に聞けば、きっと否定する。
そこで夕食の席で、全員が「食欲がない」と言って皿を父へ押した。
父は困り、
「病気か」
と真剣に心配した。
姉が米粒を机へ並べた。
七日分、父の枕元から集めたものだった。
「お父さん、ちゃんと食べてないでしょ」
父はしばらく黙り、
「米粒を枕に置くな。虫が来る」
と答えた。
給料日前になると、父は食費を減らしていた。
子どもに気づかれないつもりだった。
母を亡くしたぶんまで、自分が満たさなければならないと思っていた。
「お腹いっぱいにするのが親の仕事だ」
父が言うと、兄が返した。
「一人だけ空腹になるのは家族じゃない」
翌日から、皆で献立と財布を相談した。
肉が少ない日は細かく切って炒飯にした。
姉は安い食材を調べ、兄は週末に買い物を手伝い、末の子は庭で葱を育てた。
豪華にはならなかったが、父の皿も同じ量になった。
枕元の米粒は減った。
それでも時々、誰かのところに現れた。
末の子が姉へ最後の苺を譲った日。
兄が父へ夜食を残した日。
譲り合うことまで、全部やめる必要はなかった。
違うのは、朝になったら米粒を隠さず、食卓へ持ってくることだった。
「昨日、誰が減らした?」
皆で問い、次の食事で少し多くよそう。
子どもたちが成長し、家を出たあと、父の枕元に米粒が三つ並んだ朝があった。
その日、三人がそれぞれ食べ物を持って帰ってきた。
父は大鍋の蓋を開け、
「今度は作りすぎた」
と言った。
家霊はもう米粒を置かなかった。
四人とも同じ食卓に座っていたからだ。