栗菓子を残した皇帝
宮廷晩餐では、甘味は身分の高い者から選ぶ。
給仕見習いフロラが好きな栗菓子は、いつも彼女の番まで残らない。
皇帝エルガディオは、彼女が菓子台を見るたび一瞬だけ足を止めることに気づいていた。
秋の収穫宴で、彼は自分の皿に最後の栗菓子を取った。貴族たちは皇帝の好物だと思ったが、エルガディオは手をつけず、給仕を終えたフロラへ差し出す。
「食べるか」
「私がいただくわけには」
「食べたいかと聞いた」
「……はい」
皇帝は銀匙まで、彼女が苦手な重い装飾のないものへ替えさせた。戦地からの撤退を願う将軍には水一杯与えない男が、フロラの菓子だけは冷めすぎないよう蓋をする。
その直後、宴会長がフロラへ命じた。
「皇帝陛下へ感謝の舞を捧げなさい」
彼女は匙を置いた。
「踊れません」
「菓子まで賜って拒むのか」
「いただいたことと、踊ることは別です」
宴会長は腕をつかもうとした。エルガディオの杯が卓上で砕ける。
「触れるな」
広間中が静まった。
「陛下、平民へ特別な恩を与えれば、返礼を求めるのが秩序です」
皇帝はフロラへ尋ねる。
「菓子を返したいか」
「いいえ。食べたいです」
「なら食べろ。それで終わりだ」
「ですが皆が見ております」
「見せればいい。余の贈り物が債務ではないと」
エルガディオは舞踏楽団を下がらせ、フロラが座れる小卓を自分の隣へ置かせた。ただし、そこへ来るかは彼女へ任せる。
フロラは少し考え、自分で椅子を運んだ。
栗菓子へ匙を入れた瞬間、皇帝は全貴族へ告げた。
フロラが一口食べると、栗の香りが温かくほどけた。周囲は皇帝へ感謝を述べるのを待っていたが、エルガディオは感想さえ求めない。
「もう一つ食べたいです」
「厨房にある」
「明日の分まで取っておけますか」
皇帝は給仕へ命じた。ただし「皇帝からの下賜」と札をつける案は退け、フロラ自身の名で保存させた。
「余が彼女へ与えたものを、服従の代金に変えるな。フロラは礼も舞も約束も、望まぬ限り返さなくてよい」