棺桶を選んでください
葬祭会社の研修室へ集められた新入社員五人の前に、五種類の棺が並んでいた。
講師が言う。
「一人一つ選んでください。最後には中へ入ってもらいます」
新人たちは笑えなかった。
「業界研修だから本物ですよね」
「サイズも人数分」
「最後に入る、って」
「退職者を外へ出さない会社?」
「求人票には離職率ゼロと」
「文字どおりだったのかも」
講師は研修資料を配る。
「内側から開けることはできません」
一人が青ざめる。
「閉じ込める前提」
「音も外へ届きにくいです」
「助けを呼べない」
「燃焼時は——」
「そこまで聞かなくていい!」
五人は、どの棺が生存率の高い“当たり”か分析し始めた。
「木製なら壊せる」
「金属製は火に強い」
「布張りは呼吸できそう」
「棺に通気性を求めないで」
「一番高い物が安全とは限らない」
「会社は新人へ高級棺を使わない」
「予算から処刑方法を読むな」
講師が尋ねる。
「決まりましたか?」
一人が逆に質問する。
「過去の研修参加者は、全員無事ですか」
「研修後は各支店へ」
「生きて?」
「もちろん」
「その“もちろん”を最初に言ってください」
それでも疑いは消えない。
「研修後というのは、別の意味で生まれ変わる?」
「各支店に一基ずつ配置?」
「新人が商品見本になる?」
「人件費と在庫を同時に処理する会社……」
講師が額を押さえた。
「皆さん、葬祭業への想像力が暗すぎます」
最後に、講師は自ら一つの棺へ入り、蓋を閉じた。
五人が悲鳴を上げる。
すぐ蓋が開いた。
「ご遺族へ説明するには、寝心地、圧迫感、内張りの違いを実体験する必要があります。三分横になって感想を書く研修です」
新人たちはようやく棺を選んだ。
一番人気は、枕の柔らかい最高級品だった。
三分後、五人は順番に起き上がった。
「意外と落ち着きますね」
「昼休みに使えますか」
講師は首を振る。
「寝坊すると、ご遺族役の研修が始まります」
講師は研修記録へ〈全員、寝心地良好〉と書いた。
離職率ゼロの理由は、単に昨年入社がゼロ人だった。