欠けた茶碗の値段

水庭映月は、水筒に薄いお茶を入れてきた。

茶葉は一度使ったものを冷やしてあり、湯のみ代わりの小さな茶碗には欠けを金で継いだ跡がある。花守谷里緒奈は、豪華なカフェ飲料を机へ並べた。

「二番茶に割れた器って、さすがに貧乏くさすぎない?」

映月は、二煎目のほうが甘い茶もあると答えた。

海外姉妹校の訪問日に、歓迎茶会が開かれた。里緒奈は茶道経験を自慢し、高価な茶器を持参した。映月には裏方で湯を沸かすよう言う。

そこへ、世界的な高級茶ブランドの会長と海外ホテルの総支配人が来賓として現れた。会長は映月の欠けた茶碗を見ると、両手で大切に受け取った。

「初代の茶碗を、まだ使っているのですね」

水庭家は、県内の茶畑の大半と製茶会社を所有する創業家だった。映月の母が社長で、家の茶は海外の王室や高級ホテルにも納められている。家族は商品にならない二番茶も飲み、欠けた器は捨てず、土地の職人へ金継ぎを頼んでいた。豪華な新茶を自宅用に取り分けず、最高品質のものほど契約農家の名を付けて正規価格で世に出していた。映月が水筒へ入れる茶も、選別で残った葉を最後まで生かすための試飲記録だった。

映月は高校生ながら、低温抽出した二煎目を使う新商品を開発していた。捨てられていた茶葉から香りを引き出し、農家の収入を増やす仕組みである。

海外ホテルの総支配人が独占契約書を差し出した。

「全館の歓迎茶として採用します」

契約額は里緒奈が持参した茶器を何千組も買える金額だった。

里緒奈は悔しそうに言う。

「でも、その茶碗は割れてるじゃない」

会長が鑑定書を見せた。初代当主が使った歴史的な器で、金継ぎを含めた評価額は五千万円。里緒奈の茶器は量産品に有名窯の偽印を押したもので、茶道具店から回収を求められていた。

映月は二煎目を姉妹校の生徒へ注ぐ。

総支配人が契約書へ署名し、欠けた茶碗を歓迎茶の象徴として広告へ載せると決めた瞬間、里緒奈が割れ物と笑った器は、二つの国をつなぐ最も高価な一服になった。