欠番の見積書

印刷会社の若手オペレーター、戸室圭吾は、仕事番号の欠番が嫌いだった。1182の次は1183、その次は1184。数字が飛ぶと、刷り忘れがあるようで落ち着かない。

道路標識更新の入札前夜、地区建設協会から四社分の見積書印刷を依頼された。機密扱いで、担当者がUSBを持ち込み、一社ずつ別の封筒へ入れて持ち帰った。仕事番号は1182、1183、1185、1186。1184だけが取り消されていた。

圭吾が担当者へ確認すると、「テスト印刷だから削除した」と言われた。だがプリンタのスプール履歴には表題が残る。『年度別落札順_確定』。印刷時刻は四社の見積書より七分前だった。

翌日、県の開札結果をニュースで見た圭吾は息を呑んだ。落札会社も、各社の順位も、1184のプレビューに並んでいた順番と同じだった。金額欄には、実際の入札額まで記載されていた。

協会からは履歴を消すよう電話が来た。圭吾の上司も、顧客データだと言って黙るよう命じた。しかし印刷機は保守契約上、ジョブ名とサムネイルを三十日保存する。削除操作そのものも記録される。

県の落札決裁会議に、印刷不良の確認という名目で圭吾が呼ばれた。協会担当者は、四社が独自に作った文書だと説明した。圭吾は保守ログを一枚提出した。

「四社分の間に、欠けた仕事番号があります」

委員長が1184を拡大する。『今年A、次年B、翌年C』。その下に今回の四つの金額。作成時刻は開札の十四時間前だった。

協会担当者はテストデータだと言った。圭吾は、テストならなぜ結果と一円まで同じなのかと尋ねた。

圭吾は印刷機に残ったサムネイルを開いた。四社の略号の横に、今年から三年先まで丸印が移動している。今回の落札会社には今年の丸、二位には来年の丸。用紙には四社の見積書と同じ微細な裁断線があり、同じ束から刷られたことも分かった。協会担当者が消去を命じた時刻まで、保守ログは秒単位で記録していた。欠番を隠そうとした操作が、かえってその存在を固定していた。

委員長は決裁印を持ったまま、欠番の一行を見続けた。印刷されなかった一枚が、契約の最後の一枚を止めていた。