死者を含む三名
久慈仁は、倒れた塩見柊の親指を認証板へ押しつけた。
血で濡れた指紋が読み取られ、二つ目の青い票が点灯する。
「死体の票だぞ!」
向かいの遠野崎豪が叫んだ。彼の手には、柊を刺した細い刃がまだ握られている。
壁の規則は、入室時から変わらない。
《開始時の参加者三名による指紋票の過半数を受けた者を処刑する》
豪は開始直後、柊の腹を刺した。そして仁へ一票を入れた。
刃物は主催者が置いたものではない。豪が靴底へ隠して持ち込んだ。彼はゲームの外から人数を減らせば、票の価値を変えられると確信していた。
「これで生存者は二人。俺の一票が過半数だ」
そう笑った。
仁は反論せず、自分の票を豪へ入れた。一対一。次に、柊の身体を認証板まで引きずった。
残り五秒。
「死んだ人間は参加者じゃない!」
「規則は『集計時の生存者』と言っていない。開始時の参加者三名だ」
豪が柊の手を蹴ろうとする。床の仕切りが上がり、票を入れた者同士を隔てた。
柊は完全には死んでいなかった。呼吸は止まりかけ、瞳も動かない。それでも刺される直前、仁の掌へ自分の親指を重ねていた。
認証板は体温ではなく、開始時に採った指紋との一致だけを見る。死亡を理由に票を拒む表示は、どこにもなかった。
――あいつに、入れろ。
声にならない合図だった。
集計。
久慈仁、一票。
遠野崎豪、二票。
《過半数を確認》
豪の首輪が閉じ始める。自分で減らしたはずの人数が、数字の中だけ元へ戻っていた。
「死人を道具にしたお前が勝者か」
仁は柊の手を胸の上へ戻した。
「勝手に殺して、勝手に票まで消えたことにするな」
天井の声が告げる。
《塩見柊、心停止を確認》
豪の顔に一瞬だけ希望が戻る。
《ただし、開始時参加者として投票は有効です》
仁の首輪が外れた。柊の首輪も、遺体から静かに開く。
「多数決の母数は、都合よく減らせない」
処刑灯が豪を照らす。
仁は柊の冷え始めた指を握ったまま、最後に言った。
「お前が奪った命にも、最後の一票は残っていた」