沼銀の首輪

霧の沼に、丸太を浮かべただけの道が伸びていた。

ケラン・モールは、向こう岸の人質フィンラを見た。幼いころ同じ乳を飲んだ、族長の養い子だ。首には沼銀の首輪が嵌められている。

こちらが返すのは敵族長の息子ブラン。彼の首輪は細く、軽い。フィンラのものは同じ形なのに、右肩だけが沈んでいた。

鉛が入っている。

沼銀は錫と銅の合金で、水へ落ちても浮きはしない。だが中空に作れば、首一つを引くほど重くもない。敵は継ぎ目から鉛を流し込み、片側へ固めたのだ。

交換後、丸太道の中央で縄を切る。ブランは軽い足で敵岸へ戻る。フィンラは重い首輪に振られ、濡れた丸太から落ちる。助けに入れば、葦陰の弓兵が射る。

「首輪を外せ」とケランは言った。

敵族長が笑った。

「人質は印を付けたまま渡す。古い掟だ」

「鉛を詰める掟は聞いていない」

「証拠はあるか」

ケランは自分の首から同じ沼銀の輪を外し、丸太へ落とした。乾いた軽い音がする。次に長槍の穂先でフィンラの首輪を指した。

「それを落としてみろ」

「外せぬと言った」

「なら継ぎ目を割る」

敵兵が矢をつがえた。フィンラは動かなかった。首輪の右側が鎖骨へ食い込み、皮膚を黒くしている。

ケランはブランを前へ出し、その首へ自分の輪を嵌めた。

「こちらの人質にも印を足した。重さは同じにする。フィンラの輪から鉛を抜くか、ブランの輪へ同じ量を入れろ」

敵族長の目が細くなる。息子へ鉛を付ければ、罠は自分の子にも働く。抜けば企てを認める。

沼の霧が二人の間を流れた。

やがて敵族長は鍛冶を呼んだ。鑿がフィンラの首輪の継ぎ目へ入る。一打、二打。割れた隙間から、灰色の鉛塊が泥へ落ちた。

誰も何も言わなかった。言葉にすれば、掟を破った側が決まる。

首輪は軽くなったが、外されなかった。

人質二人が丸太道へ進む。水面が足元で揺れ、葦が風もないのに動く。弓兵が隠れているのだ。

中央ですれ違う。ブランは走らず、フィンラも急がない。敵族長は息子が岸へ着くまで弓を命じられない。その時にはフィンラもこちらへ三歩の位置だった。

ケランは腕を伸ばし、養い子を泥岸へ引き上げた。

向こうでブランが父に抱かれる。葦陰の弓は最後まで放たれなかった。

ケランは割れた鉛を槍先で沼へ落とした。鈍い水音だけが残る。

「葦門の杭を抜け」

砦兵が綱を引き、浮き門が霧の中へ開いた。