泥の王冠
柊吾は、騎馬戦で奈津乃に負けたくなかった。
小学校からずっと同じクラスで、徒競走も持久走も、腕相撲まで勝ったり負けたりしてきた。今年は別の組。赤い鉢巻きと青い鉢巻きに分かれた途端、二人とも本気になった。昼休みには得点板の前で鉢合わせし、相手の点数だけ暗算で何度も確かめた。
前夜の雨で、校庭の中央には泥が残っていた。
決勝、柊吾の騎馬と奈津乃の騎馬が向き合う。周りの歓声が遠ざかり、二本の鉢巻きだけが風に揺れた。下で騎馬を組む仲間たちは「私情を持ち込むな」と言いながら、二人以上に楽しそうだった。
「落ちた方がジュース」
奈津乃が言う。
「鉢巻き取られた方だろ」
「怖いの?」
開始の笛。
柊吾は手を伸ばした。奈津乃は身をひねる。騎馬が泥で滑り、両方同時に傾いた。
次の瞬間、六人と二人がまとめて水たまりへ落ちた。
空が見え、泥が口に入った。審判の笛が何度も鳴る。柊吾が起き上がると、手には青い鉢巻きがあった。けれど自分の赤い鉢巻きも、奈津乃の手に握られている。
同時だった。柊吾が先だと赤組が叫び、奈津乃が先だと青組が叫ぶ。本人たちは泥の中で互いの鉢巻きを掲げ、笑うしかなかった。
判定は引き分け。得点は両組に半分ずつ。
奈津乃は顔の右半分を泥で黒くし、髪に草を刺したまま笑っていた。
「王冠みたい」
彼女は柊吾の頭に、泥まみれの青い鉢巻きを載せた。柊吾も赤い鉢巻きを奈津乃の頭へ置く。
「二人とも負けだな」
「二人とも王様でしょ」
「王様が二人いたら戦争になる」
「もう終わった」
奈津乃が手を上げた。柊吾も上げる。
泥だらけの掌がぶつかり、湿った音がした。白い体操服に泥のしぶきが飛ぶ。後ろでは騎馬を組んでいた仲間たちが、引き分けなのに優勝したように騒いでいた。
閉会式では、赤組が三点差で勝った。
柊吾はジュースを二本買い、一本を奈津乃へ渡した。
「俺たちの勝負は?」
「来年に持ち越し」
「また別の組だったら?」
「その方がいい」
泥の王冠は洗えば落ちた。
けれどあの日から二人の勝負には、勝ち負けのほかに、引き分けという一番楽しい続きができた。