洪水を曲げる柳堤

河畔のセイア村では、強い雨が降ると川が東の畑へ溢れた。堤を高くすれば下流の村へ水が押しつけられるため、誰も工事に賛成できずにいた。

水利官アゼルは、川を閉じ込める直線堤ではなく、増水だけを共同草地へ曲げる柳の防壁を描いた。

「畑を守る代わりに、使っていない低地を一晩だけ水へ貸します。下流へ送る量は増やしません」

建設費は守られる土地の所有者が一反につき銅貨五枚。借りて耕す農民には課さず、地主が小作料へ転嫁した場合は翌年の水利権を停止する。共同草地を使う牧畜家には費用を求めない代わり、洪水月だけ家畜を高地へ移す日程を全員で決める。柳の手入れは作業一日につき銅貨五枚分として相殺する。

地主ホフは不機嫌に言った。

「水を受ける草地の者が払わず、畑の持ち主だけが払うのか」

「草地は土地そのものを差し出します。あなたは収穫を守られます。同じ形でなく、同じ重さを負担します」

牧畜家たちは高地への道を自分から直した。地主は銅貨を出し、小作人は請求されないと確認して柳枝を編んだ。会計板には金額だけでなく、草地を空ける日数も同じ大きさで記された。

工事前夜、アゼルは下流の村にも図面を持って行き、越水口から流れる量を水桶で再現した。賛成の署名を求めるのではなく、赤線を越えたら工事を止める監視役を一人選んでもらった。選ばれた若者は毎日水位標を確認し、記録を両村へ写した。守られる側だけで安全を宣言しなかったことが、最後まで反対していた地主にも鍬を持たせた。監視役の印は、越水口の青い杭にも刻まれた。

最初の豪雨の日、川は膨れた。水は柳堤の曲線に沿って流れ、開けた越水口から共同草地へ静かに広がった。東の畑は濡れず、下流の水位標も赤線を越えなかった。

雨上がり、草地には浅い湖ができ、畑には麦が立っていた。

アゼルは越水口へ青い杭を一本打った。

――水を押しつけず、場所を分け合う。

数日後、その杭の脇で柳の枝が最初の若葉を開いた。