海のシール帳
津村花音が一日だけ病院を出る日に、姪は保育園へ行っていた。
会えないよう時間を選んだのは花音だった。泣かれるのが嫌なのではない。三歳の姪は、花音の短い髪も細い腕も気にせず、遊べる人を見れば全力で遊ぶ。外出許可の六時間を全部使ってしまいそうだった。
今日の用事は、歯みがき用のシールを買い、姪の台帳へ補充すること。一回磨くと一枚貼り、十枚たまれば新しい歯ブラシを選べる。花音が作った台帳は、あと二回で最後のページになる。
百円店のシール売り場には、動物、乗り物、果物が並んでいた。姪は海の生き物をまだ「魚」と「魚じゃない」にしか分けられない。花音はクラゲ、タコ、エイ、クジラの入った青いシートを三枚選んだ。
レジへ向かう途中、金色の大きな星シールも目に入った。最後の日に貼れば目立つ。しかし特別な一枚を作ると、そこへ着いた時に説明が必要になる。花音は星を棚へ戻した。毎日同じ大きさの魚でいい。
姉の家へ着き、洗面所の棚から台帳を出す。画用紙を二つ折りにし、十個の丸を描いただけのものだ。貼り方は自由なので、姪は丸の外へ半分はみ出させる。前のページには、イルカの尾だけが隣の丸へ侵入していた。
花音は新しいページを三枚作った。定規を使うと疲れるため、マグカップの底で丸を描く。十個ずつ、少しずつ形が違う。右上には歯ブラシの絵を描いたが、毛先が箒のようになった。
シールシートは一枚ずつ切り離し、台帳の裏表紙に透明テープで留める。姪が自分で剥がせるよう、端を五ミリだけ折ってつまみを作った。姉から「今どこ」とメッセージが届き、花音は洗面所の写真だけ送った。
古い台帳の最後に、新しい三ページをホチキスで綴じる。針がうまく通らず、一度外して厚みを減らした。二回目で銀色の針が平らになった。
花音は青いシールシートの端をもう一度折り、姪の指が届く高さへ厚くなった台帳を戻した。青いクラゲの丸い頭が、透明テープの下で端までまっすぐ並んだ。