海苔弁の境界線
兄妹の弁当は、一枚の海苔からできている。
母の志都香は、焼き海苔を半分に切り、兄の聖志と妹の乃愛のご飯へ載せる。海苔の端が欠ければ、どちらに入れるかはその日の気分だ。
高校三年の聖志と一年の乃愛は、家ではほとんど話さない。同じ電車で通学しても車両を分け、昼休みも別々だ。
ある朝、志都香が熱を出した。台所には炊いたご飯だけがある。
聖志は卵を焼き、冷凍の白身魚を温め、二人分の箱へ詰めた。最後に海苔を切ろうとして、真ん中から大きく裂けた。片方は四角く、片方は細長い。
「私、細いほうでいい」と乃愛が言った。
「別に、こっちでも」
結局、聖志が細いほうを取った。
昼、乃愛が弁当を開くと、海苔の下に醤油が多すぎて、ご飯まで黒く染みていた。卵焼きは味がなく、魚は端が冷たい。それでも兄が台所に立つ姿を思い出すと、残す気にはならなかった。
放課後、駅のホームで偶然並んだ。
「卵、味しなかった」と乃愛が言う。
「塩、忘れた」
「海苔はしょっぱかった」
「醤油、出すぎた」
二人は少し笑った。
帰宅すると、志都香は眠っていた。聖志が粥を作り、乃愛が梅干しを出す。鍋の湯気に、昼の海苔の匂いが重なる。
翌朝、熱の下がった志都香が弁当を作った。海苔を半分に切ると、切り口はきれいに揃った。
乃愛は箱を包みながら、兄の蓋に細長い海苔が少しはみ出しているのを見つけた。昨日の残りだろう。境界線のようだった海苔は、端が重なれば同じ一枚に戻りそうに見えた。
昼休み、聖志は細い海苔を端から食べた。乃愛は別の教室で、四角い海苔を食べている。同じ一枚だったことを知っているのは家族だけだ。放課後、二人はまた同じ車両に乗った。会話はなかったが、吊革につかまる袖から、同じ醤油と海苔の匂いがわずかにした。
夜、志都香が海苔の袋を閉じる音を聞きながら、乃愛は翌朝も兄が作ればいいのにと思った。口には出さない。代わりに卵焼き用の塩を、忘れないよう四角い鍋のそばへ置いておいた。