火曜日だけの器

小鹿野凪は喫茶「サフラン」で、自分のオンライン店の営業カレンダーを開いていた。

先月は宛名を二件取り違え、夜中に作り直して速達で送った。謝罪文には『今後は確認を徹底します』と書いたが、確認する時間を増やす代わりに、眠る時間をさらに減らしただけだった。

定休日を告知する投稿には、謝罪の言葉を三つ入れていた。凪は読み返し、その三つを一つずつ消した。

手製のアクセサリーを売り始めて二年、注文は少しずつ増えた。会社を辞めた自由と引き換えに、休日がなくなった。発送しない日も問い合わせへ答え、制作しない日も写真を載せる。休業日を作ると客が離れる気がして、毎月すべての日を営業中にしていた。

店主が出したカップは、緑の格子柄だった。長く使われ、持ち手の角は丸く、底には細かな擦り傷が重なっている。飲み終えた凪が何気なく裏返すと、大きく「火」と書かれていた。

店主はカップを受け取ると、棚へ戻さなかった。カウンター下の小さな引き出しを開け、布の上へ置く。そこには器一つ分の丸い跡がついていた。店主は引き出しを閉め、鍵をかける。

壁の時計を見ると、今日は火曜日だった。

凪が首をかしげても、店主は説明しない。伝票の日付を確認し、毎週火曜にだけ押すらしい緑色の店印を一つ押した。カップは火曜日に使われ、洗われ、次の火曜日まで休む。それを何年続けたのか、格子柄の薄れ方だけが知っていた。

凪の店は、毎日開いているのに、最近発送間違いが増えている。新作を考える時間もなく、同じ形ばかり作っていた。閉じないことで、少しずつ店を擦り減らしていた。

会計を済ませた凪は、営業カレンダーの設定を開いた。定休日の欄へ火曜日を選ぶ。〈返信・発送とも翌営業日〉という案内を入力すると、冷たい文章に見えて何度も消しかけた。

店主が引き出しの鍵をレジ脇の定位置へ掛けた。休ませたカップのことを、申し訳なさそうには扱わなかった。

凪は設定を保存し、次の火曜日を灰色に変えた。

その空いた一日に、新作の下絵を描く予定だけを入れた。