灰冠の奇跡

避難民が礼拝堂へ押し込まれたとき、正門が破られた。

外には疫獣。中には水の尽きた子どもと負傷者。修道院長グンザは聖者の灰を抱え、地下通路へ逃げようとしていた。

「奇跡は王侯のために残す。彼らは教会を支える」

見習いイセラは灰壺を奪った。

聖者の灰を自分の身体へ塗り、願いを唱えると、一つだけ奇跡が起こる。代わりに、灰を塗った部位は永久に石になる。

イセラは左足の小指へ灰を擦り込み、「扉よ、閉じよ」と唱えた。

割れた正門が石壁へ戻る。同時に小指が白い石となった。

疫獣が窓を砕く。

右足の指へ灰。窓が塞がる。

子どもが空の水桶を抱いて泣く。イセラは左手の小指へ灰を塗り、「水よ、満ちよ」と願った。桶から清水が溢れ、指が動かなくなる。

一度、二度。小さな部位から使えば、より多く奇跡を残せる。彼女は指を一本ずつ石にし、裂けた腹を閉じ、毒を消し、崩れた梁を支えた。

グンザが灰壺を取り戻そうとする。

「その灰は、戴冠式で金貨千枚になる!」

「では、今ここにいる千人に使えば同じです」

疫獣の角が壁を貫き、石が崩れた。イセラは足首へ灰を塗る。壁は厚くなるが、左脚が床へ固定された。

逃げられない。

それでも負傷者はまだいる。右手を石にして熱を下げ、左腕を石にして折れた首を戻す。胸へ灰を置けば、礼拝堂全体を守る結界が張れると分かっていた。

「死ぬぞ」と院長が言う。

「石は死にません。あなた方は聖者をそう呼んできたでしょう」

イセラは胸骨の上へ最後の灰を塗った。

白い光が礼拝堂を満たし、疫獣の爪が結界で砕ける。避難民の傷が閉じ、毒の斑点が消えた。

石化は胸から首へ、頬へ広がった。唇が固まる前に、イセラは灰壺の底を群衆へ見せる。そこには王侯へ売る予定の日付と価格が刻まれていた。

人々の視線がグンザへ向く。

院長は逃げようとして、回復した兵士たちに取り押さえられた。

夜明け、門の外には疫獣の死骸が積もっていた。

礼拝堂の中央には、片方の瞼だけを閉じ損ねた石像が立っている。少女の法衣、壺を掲げた両腕、胸に刻まれた灰の値札。

右目だけは石にならず、救われた人々を見ていた。

瞬きはしなかった。

それでも誰も、逃げた院長を聖者と呼ばなかった。