焼き芋の新聞紙
図工室の石油ストーブで、教師の汐音は焼き芋を作る。
正確には、休み時間に濡らした新聞紙とアルミ箔で包み、ストーブの上へ載せる。放課後には柔らかくなる。
今年は用務員の晴伍から、畑で採れた細い芋をもらった。
「小さいからすぐ焼ける」
美術部の生徒たちは、制作より芋の匂いを気にしていた。
「まだですか」
「絵を一枚仕上げたら」
夕方、箔を開く。濡れていた新聞紙は乾き、甘い湯気が出た。
一本だけ中心がまだ硬かった。晴伍が半分に折り、焼けたところだけ皆へ分ける。
「急ぐと芯が残るな」
生徒の一人が、制作中の粘土にも同じことを言われたと笑った。
翌週は太い芋を朝から載せた。教室が一日中甘く香り、ほかの先生まで覗きに来る。
放課後、全員で食べた。皮に近い部分は飴色で、指へ蜜がつく。
冬が来る前、ストーブ点検の日に最後の芋を焼いた。
包んだ新聞には、生徒の展覧会の記事が載っていた。汐音は焦げる前にその部分だけ切り取り、壁へ貼った。
残った紙で芋を包む。印刷の匂い、灯油、甘い蜜。秋の図工室は、作品より先に焼けたものの香りで満ちた。
展覧会当日、壁の記事の下に生徒たちの作品が並んだ。晴伍は焼き芋を差し入れようとしたが、会場は飲食禁止だった。全員で外の階段へ座り、新聞紙をほどく。冷めた芋は甘さが濃く、指へ蜜がまとわりつく。生徒の一人が、自分の粘土作品より芋の形のほうが面白いと言った。汐音は笑い、割った断面をよく見るよう勧める。紫の皮と黄色い中身から、灯油のない場所にも図工室のストーブの匂いが戻った。
展覧会の記事は年度末まで壁に残った。灯油が切れ、ストーブを片づけても、紙の端だけ薄く茶色い。生徒たちはその前を通るたび、作品より先に芋の甘い匂いを思い出した。
春、記事を外すと壁に四角い白さが残った。汐音は埋めずにおく。次のストーブを出す季節まで、甘い空白として。