産地欄の空白

原料原産地の欄だけが、白く空いていた。

冷凍ベリー四万袋の出荷判定。食品会社の品質表示担当、寺尾志津にとって最後の勤務だ。判定を終えたら、書類棚の退職届を課長へ渡すつもりだった。輸入業者の証明書には、加工国と包装国だけが記されている。商品ラベルには、いつもどおり一つの国名が印刷されている。

四万袋は学校給食にも使われる予定で、箱には出荷先の自治体名が並んでいた。味も安全性も変わらなくても、表示が違えば、アレルギーや残留農薬の問い合わせに正しく答えられない。空白は倉庫では軽くても、食卓まで届けば重くなる。

「去年と同じ農園だそうです。船が着いているから、今日判定しないと保管料が出る」

課長は出荷可の印を求めた。

志津はロット番号を分解した。末尾の記号が、前年の単一農園品とは違う。輸入業者へ確認すると、天候不良で三か国の原料を混ぜたロットだと分かった。安全性に問題はないが、今のラベルでは表示が事実と異なる。

「出荷を保留します」

「空欄は、違反の証拠じゃない」

「正しいという証拠でもありません」

志津は倉庫へ対象ロットだけを隔離するよう連絡し、既存の袋へ貼れる訂正シールを作った。国名を並べるだけでなく、混合比率が変わっても使える表示へ変える。隣の新人、実花が、出荷判定書へ謝罪文を書こうとした。

「謝る前に、どこで空欄を見つけるかを書いて。人が変わっても止められる手順の方が大事」

輸入業者から正式な産地証明が届き、訂正シールの内容と一致した。四万袋は翌朝出荷できることになった。損失は保管料一日分だけで済んだ。

課長は、保管料の補償交渉まで志津が担当するよう指示した。

志津は証明書の確認経路と訂正シールの仕様を引継書へまとめ、価格交渉は承認権を持つ課長の担当だと明記した。何でも引き受けることを、責任感と呼ぶのはやめる。

出荷可の印を訂正後の判定書にだけ押し、退職届を課長へ渡した。続けて、生産者協同組合から届いた採用通知へ署名した。

次は、産地を隠す側ではなく、産地から伝える側へ行く。