畑の下で眠る温室
「二匹の魔物を同じ体温にする? 風邪の看病にしか使えまい」
農政院の査定官は、エノルを無能として霜原へ送った。
【技能:《同じぬくさ》――同時に触れた魔物二体の体温を、夜明けまで両者の中間にそろえる】
人間や植物には効かず、一晩に一組だけ。エノルは荒れた畑を借り、土の下へ広がる水運びスライムのミズネと、老いた熾火亀のホムラを飼った。
ミズネは用水路から水を吸い、細長い身体を畝の下へ伸ばす。ホムラは昼、石窯のそばで甲羅を温め、夜は小屋の薪を焦がさぬよう灰の上で眠る。エノルは二匹の糞を混ぜ、霜に強い豆を少しずつ増やした。
収穫を三日後に控え、黒霜が来た。
夜半には気温が骨まで下がり、霜原全体の豆が白く固まる。農政官バレッサは王都への供出を諦め、種だけ刈り取れと命じた。今年の豆を失えば、冬の孤児院へ渡す蛋白源がなくなる。
エノルは畑の中央へホムラを運んだ。熱い甲羅を抱え、もう一方の手を、畝の下に広がるミズネへ差し入れる。
「亀一匹で畑を温められるものか」
査定官が言う。
「畑の下にいるのも、一匹です」
《同じぬくさ》。
熾火亀の赤い甲羅が少し暗くなり、冷たかったミズネの透明な身体が淡い橙色へ変わる。スライムは一体のまま、細い枝を全畑の根元へ伸ばしていた。その体内をぬるい水が巡り、土の下から霜を溶かしていく。
畑の上では雪が積もった。だが根は凍らない。豆の葉にできた氷も、夜明け前には雫となって落ちた。ホムラはほどよく冷え、何年ぶりかに深く眠った。
朝、周囲の畑が白く枯れる中、エノルの豆だけが緑のまま立っていた。収穫は孤児院だけでなく、来年の種を全村へ配れる量になった。
バレッサは畝を掘り、温かなミズネへ指を触れた。
査定官が「巨大なスライムだったから」と弁明する。
農政官はその無能札を土へ埋めた。
「畑を耕す者なら、地上の葉だけを見るな」
彼女はエノルへ霜原の土地証を渡した。
「二匹の寝床を守った者が、王国の冬畑まで守った。来年の作付けはおまえに任せる」