白手袋の番号

監視映像に映ったのは、白い手袋だけだった。

八十島佳音監察官は、押収現金二千万円が消えた証拠室の映像を一フレームで止めた。顔は棚の陰。入室カードは臨時職員の栗林奈保のもの。奈保はカードを紛失したと訴えたが、監察は横領の疑いで事情聴取し、契約解除を決めていた。

画像の右手首に、青い数字が見える。

「四七」

佳音が読み上げると、立会人の砂岡耀一警備官は視線をそらした。

県警の白手袋は一括洗濯され、所属ごとに番号が縫い付けられる。証拠管理室は二十番台。四十七番は、本部長警護班に貸与された一組だけだった。洗濯記録では事件翌朝、片方だけが『血液付着のため廃棄』と処理され、処理確認者は砂岡本人だった。奈保の手には映像と違って指輪の跡がなく、手袋のサイズも二段階小さい。

「数字は潰れている。七とは限らない」

砂岡は言った。

佳音は証拠室のごみ箱から回収した片方の手袋を置いた。四七の刺繍、親指の小さな裂け目。映像の手にも同じ裂け目がある。

「なぜ警護班の手袋がここに?」

「警備訓練で使った」

「入室カードは誰から受け取りました」

砂岡は口を閉じた。

消えた現金は、県警幹部への贈賄事件で押収されたものだった。現金そのものがなくなれば、記番号の照合もできず、贈賄側の供述だけになる。本部長は事件当時、業者と会食していた。

監察室長から佳音の端末へ指示が届く。

――手袋の所属特定は不要。臨時職員の管理責任に限定せよ。

砂岡は画面を見て、安堵したように息を吐いた。

「奈保さんはカード管理を怠った。それは事実だ。君が四七を書けば、警護班全員の行動が開示される。本部長の警備計画まで外へ出るぞ」

「現金を持ち出したのは誰です」

「守る対象を間違えるな」

佳音は報告書の被疑対象欄から栗林奈保の名を消した。代わりに「本部長警護班・貸与番号四七」と入力する。

砂岡が手袋へ手を伸ばす。

佳音は先に透明袋へ封じ、洗濯台帳を重ねた。そして処分審査の机の中央へ、白い手袋を置いた。