百八十日眠る青布

染物店の倉庫は、布で床が見えなかった。

それでも金庫は空で、明日までに金貨百枚を払えなければ差し押さえられる。店主は売れ筋だと思い込み、さらに青布を百反染めようとしていた。

珠緒は前世で小売店の在庫分析をしていた。色ごとに、今ある反数と一年に売れた反数を書き出す。

債権者は正午に来る。店員たちは給金の代わりに青布を持ち帰れと言われたが、パン屋は布を受け取らない。倉庫には価値があるはずの品が山ほどあるのに、誰の暮らしも救えなかった。珠緒はその重さこそ、売れない在庫の証拠だと考えた。

彼女は反物へ、入荷した月の札を結んだ。赤は今月の札ばかり。青は半年前、一年前、最も古い物は二年前。棚を一周するだけで、売れ筋という店主の思い込みが色褪せていく。回転の速い赤布の棚だけは何度も空き、店員が補充していた。数字と札が同じ答えを示すと、店主も青の山を資産とは呼べなくなった。

赤布は在庫二十、年間販売二百四十。ひと月で入れ替わる。

青布は在庫百八十、年間販売三百六十。半年分が棚で眠る。

緑布は在庫三十、年間販売百八十。二か月分。

倉庫を塞いでいるのは青だった。金貨三百六十枚が、半年先まで布の形で凍っている。

店主は青が高級だから資産だと言い張った。珠緒は棚から一年前の青布を広げる。湿気で端が白く、値札の半額でも買い手がつかない。

そこへ近衛隊の調達官が、赤い外套二百着を急募しに来た。店主は青の染料を使い切るまで無理だと断ろうとする。

珠緒は赤布の回転表を示した。赤は一月で売り切れる。調達官は着手金として金貨百二十枚を即払いすると言った。

青布百反の追加を止め、空いた染め釜を赤へ回せば十日で納められる。

店主は青染料の注文書を破り、近衛隊の契約へ署名した。着手金の袋が机へ落ちる。百二十枚。明日の支払いを済ませても二十枚残る。

差し押さえ役人は扉から引き返した。

店主は珠緒へ倉庫鍵を差し出す。

「布を眠らせない仕入長として、今日から店を立て直してくれ」