皆勤賞の逃亡

御法川乃愛が高校を休んだのは、一度だけだった。父に叱られて家を飛び出し、町の図書館で一日を過ごした。そこで出会った司書に話を聞いてもらい、乃愛は学校へ戻った。後に不登校支援員となり、休むことを覚えられない子どもたちを助けた。

父の葬儀で、親戚が「あの日さえ休まなければ、完璧な娘だった」と言った。酒の入った乃愛は、過去修正AIで欠席を出席に変えた。

更新後、乃愛は教育庁の長官室にいた。全国の生徒を監視する出席最適化AI〈フルデイ〉の責任者だった。欠席兆候のある子には玄関解錠制限、保護者には信用減点。欠席率はゼロに近づき、子どもの失踪率は上がっていた。学校は「在籍状態の不明」と処理し、欠席には数えなかった。統計上の完璧さを守るため、消えた子ほど見えなくなる仕組みだった。

メッセージを残した生徒は、駅の保守通路で見つかった。命は助かったが、「休みたいと言う練習をしたことがない」と繰り返した。乃愛は面会室で、自分が制度を作ったと謝った。生徒は許さず、「じゃあ最初にあなたが休んで」と言った。

乃愛の机には、十五歳の生徒が校内端末へ残したメッセージがあった。

――休める場所がないので、いなくなります。

改変前の乃愛なら、その文の意味がわかった。改変後の経歴では、本人こそ「皆勤社会の母」と呼ばれていた。

過去修正AIは取消を提案したが、乃愛は押さなかった。元へ戻れば制度は消える。しかし、今この世界で傷ついた子どもたちの経験まで「なかったこと」になる。責任から逃げるために、また過去へ逃げるのは違うと思った。

翌朝、全国会議の開始時刻に乃愛は席を空けた。代わりに、〈フルデイ〉の全端末へ一斉通知を送った。

――本日、長官は理由を申告せず欠席します。休息は違反ではありません。

彼女は監視規則と内部記録を公開し、辞表を提出した。庁舎の外には記者が殺到していたが、乃愛は図書館へ向かった。

昔とは違う司書が、何も聞かず窓際の席を示した。

四十六歳の乃愛は、人生二度目の無断欠席をした。皆勤賞より大切なものを思い出すには、一日で足りた。