皿が重なる宿
街道宿『白鹿亭』は、客を断っていた。
皿が足りないのではない。皿を置く棚が足りないのだ。料理ごとに深さも縁も違う器が積めず、十二段の棚へ九十枚しか入らない。宴会百人分には、隣家の納戸を借りる必要があった。
「器は一枚ずつ芸術品だ」
女将は、蒼太の素焼きを見て顔をしかめた。
蒼太が作ったのは、下ほど少し細くなる器だった。口径は同じ。底が次の器の内側へ入り、二十枚重ねても傾かない。深皿も平皿も、外側の寸法を揃えた。
宴会当日、百二十人の巡礼団が予定より早く到着した。
女将は青ざめたが、蒼太は新しい器三百枚を荷車から降ろした。棚四段にすべて収まる。従来の器なら四十段分だった。
厨房では、十枚ずつ重ねた器を一度に配膳台へ運べた。縁が揃っているから手が滑らない。盛り付けの列が止まらず、温かい煮込みが百二十人へ十五分で届く。
巡礼長が匙を入れる。器は薄いのに熱を保ち、底が安定して卓上で回らない。
食後、洗った皿も同じ高さに積み上がった。崩れた皿はゼロ。片づけ時間は一刻から二十五分へ縮んだ。
蒼太は重ねた二十枚を布で一巻きし、配膳車を石畳で走らせた。戻ってきても欠けはない。器同士の縁がぶつからず、底が内側で支えるからだ。昨月だけで割った皿は四十三枚。今日の百二十人宴会では一枚も割れなかった。
棚の高さも揃ったため、給仕は見ずに十枚ずつ抜ける。料理長が数を叫ぶ必要がなくなり、冷める前に次の卓へ届く。客の前で器が足りず、洗い上がりを待たせる場面も消えた。
女将は納戸代と破損代を足し、初月だけで新しい器代を回収できると気づいた。
女将は空いた八段の棚を開ける。そこへ酒杯と保存瓶を移せば、隣家の納戸代も要らない。
「飾り気がない」と言っていた料理長が、新しい器へ白いソースを流した。縁が同じだから料理が揃って見え、百枚の卓が一つの景色になる。
巡礼団の宿泊を手配した宿組合長が、皿を二十枚重ねて持ち上げた。
「加盟四十軒へ、まず一万枚」
女将より先に蒼太へ注文書を差し出す。
「器の規格も君が決めろ。街道宿の専属陶工として契約する」