監査ドローンは一撃を見た
《監査用映像が一般公開になってるぞ》
《五十嵐澄香は解体業者。溶岩巨神の討伐審査じゃないだろ》
《壁を一回叩くだけで勝てるって申請書、冗談だよな》
監査官が公開範囲を誤り、審査ドローンの映像がそのまま生配信された。
五十嵐澄香は、灼熱坑の中央で長柄の解体槌を肩に載せている。眼前の《溶岩巨神ボルカノス》は山腹と一体化し、殴れば地下のマグマ溜まりまで揺れて都市が噴火に巻き込まれる。
討伐ではなく、何も壊さず撤去せよ。それが審査条件だった。
この条件は、申請を諦めさせるために作られたものだった。過去の最高位解体士は全員、地震か噴火の危険を理由に辞退している。監査席では不合格印がすでに机へ出され、澄香の会社には「一撃で終える」という申請文だけが無謀の証拠として残っていた。
澄香は巨神を見ず、足元の岩壁へ白い粉で小さな印を付けた。
《そこはボスの背骨でも核でもない》
《地質図ではただの玄武岩》
《一撃失敗したら推定被害、半径六十キロ》
「建物も山も、支えている場所は一か所だけです」
澄香は槌を一度、振り下ろした。
乾いた音がした。
巨神の身体に細い線が走り、山から綺麗に外れる。流れ込むはずだったマグマは、同時に開いた古い冷却坑へ向きを変えた。熱を失った巨神は巨大な石像となり、用意されていた搬出台へ寸分違わず倒れる。
都市の地震計は、震度ゼロのままだった。
《一撃で「壊す部分」だけ指定した?》
《監査計測:破砕体積〇・〇三立方メートル》
《分離した質量は二百四十万トン》
《技能《解体線》、指定点から不要構造だけを連鎖分離。地盤損傷なし!》
澄香は槌を肩へ戻し、監査官へ尋ねた。
「撤去費は、重量割増で請求しても?」
《請求していい》
《むしろ都市を救った分も乗せろ》
《一撃の見積書が国家予算級》
不合格を前提に審査条件を作った監査官は、搬出台へ収まった巨神を三度測り直した。どの数字も澄香の事前見積もりと一致する。
《都市側の配管・基礎に亀裂なし》
《槌は量販品、白粉は普通の石灰》
澄香は合格通知より先に、作業員全員の危険手当が見積書へ入っているか確かめた。
審査票の判定欄が赤から金へ変わった。
【不合格想定試験:合格】
【世界初・災害級生体構造物の無振動解体を公式認定】
同時視聴者数は、監査官の人数を百万倍ほど上回っていた。