監視者の十三番
灰原伊吹は壁の非常ハンマーを抜き、一方鏡を叩き割った。黒いガラスの向こうで、操作員が椅子から転げ落ちる。伊吹は割れた枠を越え、操作室の奥にある「13」の扉へ走った。
篠宮凛と丸岡玄は、並んだ十、十一、十二の前で立ち尽くす。
「そこはゲームの外だ!」
玄の声に、伊吹は十三番の取っ手を下げながら答えた。
「部屋の外でも、区画の外じゃない」
規則は次の一文だけだった。
――この区画で最大番号の扉を通過した者を勝者とする。
三人は正面の三枚から最大の十二を選ぶものだと思った。凛と玄は十二を奪い合い、伊吹が鏡へ近づくのを逃走と見なした。
伊吹は開始前、消火器の横にある避難図を読んでいた。赤線で囲まれた〈防火区画C〉は、競技室だけでなく、鏡の向こうの操作室まで含んでいる。操作室の出口には十三の表記があった。図は法令上必要なもので、主催者も消せなかったのだ。
鏡の表面には、正面の扉にはない緑色の非常灯が薄く映っていた。向こうに別の扉がある証拠でもある。
操作員が伊吹の腕をつかもうとする。だが彼の手首には参加者用の拘束具がない。伊吹は机を回り込み、十三番を押し開けた。
「鏡を壊すのは禁止だ!」
天井の司会者が初めて怒鳴る。
「禁止事項は規則じゃない。今、このラウンドで示されたのは一文だけだ」
主催者は監視者を安全な外側に置いたつもりだった。だが映像を近距離で撮るため、操作室を同じ防火区画へ組み込んだ。設備上の区切りと、ゲーム上の舞台を同じ言葉で呼んだことが失敗だった。
伊吹が十三番の敷居を越える。
壁の判定表示が十二から十三へ更新され、緑色になる。
〈区画C、最大扉番号十三。通過者、灰原伊吹〉
凛と玄の手が十二番から離れた。もう何を選んでも数字は届かない。
操作員は割れた鏡の前で、司会卓を見上げる。伊吹の首輪が外れ、その足元へ落ちた。
「監視者を観客だと思ったのが穴だ」
十三番が閉じる直前、伊吹は振り返った。
「同じ区画にいるなら、舞台の中だよ」
操作室の警報より先に、勝者の表示が確定した。