石化の視線を返送します

「石眼王は盾役と攻撃役が必要」

「目を閉じれば狙えない、見れば石になる」

「鷹取伊吹、配信ドローン一機でどうする」

鷹取伊吹は剣も盾も持たず、球形の配信ドローンを肩に載せた。

石眼王バジリスクの視線を正面から受ければ、一秒で全身が石になる。鏡は過去に何度も試されたが、王の瞳は普通の反射像を認識しない。生きた観測者の目を通った像だけが呪いを運ぶため、攻略隊は目を閉じた盾役の背後から、別の一人が間接照準で攻撃していた。

伊吹は普段、危険区域を視聴者に安全な角度で見せる案内配信者だ。戦えないと笑われても、カメラが“誰の目”として扱われるかを何百回も検証してきた。

伊吹は部屋へ入るなり、ドローンの設定を《三百六十度生配信》へ変えた。

球体の表面には、視聴者へ送られている映像が遅延なしで映し返される。

「それ鏡じゃないの?」

「違う。表面はモニターだ」

「バジリスク自身を撮って、その生映像を本人へ見せる気か」

石眼王が鎌首を上げる。視聴者には事前に《呪いの観測へ参加する》という確認が表示され、九十八万人が同意を押していた。伊吹が借りるのは命ではない。一秒ぶんの視線だけだ。

黄色い瞳が開き、床から石化の白線が走った。伊吹は目を閉じたまま、足音だけで距離を測る。ドローンは彼の肩から浮き、王と同じ高さへ上がった。

白線が伊吹の靴先へ触れる直前、彼は指を一度回した。

ドローンが半回転する。

生配信中のバジリスクの瞳が、球面モニターいっぱいに映り、その映像を本物の瞳が見返した。

呪いは“生きた観測者の目を通った像”を必要とする。

百万人が見ている生映像は、鏡よりはるかに条件を満たしていた。

石化は王の瞳から始まった。

頭、首、胴、尾へ白さが走り、最後に心臓の位置で石像がひび割れる。伊吹が目を開けた時、床には粉になった王冠だけがあった。

「視聴者の視線を反射材にした!」

「呪いの観測者数、九十八万七千人」

「操作はドローン半回転だけ」

「俺たち、全員で睨み返したのか……」

配信サイトの急上昇欄が更新された。

【百万人の目でバジリスクを石にした配信】