砂漠の氷菓店は溶けない
フォスは、砂漠商隊の水配給係だった。
水色の制服は肩が擦れ、腰の鍵束は眠るときも外せなかった。誰かが規定より一杯多く飲めば叱られ、井戸車が壊れれば夜通し回し、倒れた仲間の分まで歩いた。
商隊を離れた彼は、オアシスの端に氷菓店を建てた。正確には、半ば崩れた石小屋を安く買っただけだ。
砂嵐の翌朝、店は屋根まで砂に埋まった。フォスが諦めて木陰に座っていると、石壁がぶるりと震え、砂を吐き出した。欠けた石は地中から同じ形の粒を集め、隙間を塞ぐ。扉も窓も、自分で軋みを直した。
店内では氷の精が果汁を凍らせ、旅人へ一皿ずつ渡す。代金箱は水税を差し引き、残りをフォスへ送る。彼は果物を週に二度仕入れるだけでいい。
《本日分入金。水と食料、十五日分》
通知のあと、商隊長の声が飛び込んだ。
『東路の水係が逃げた。今夜出発だ。戻ってこい』
「戻らない」
『倍の給金を出す。お前は水を管理できる』
「できます。でも、もう他人の無計画を喉の渇きで埋めません」
『商隊が立ち往生するぞ』
「日程を延ばし、人を雇い、樽を増やしてください」
『そんな余裕はない』
「私にはあります」
フォスは通信石を砂へ置いた。突風で看板が外れかけたが、石壁から伸びた細い柱が受け止め、元へ戻す。
日陰では、通りかかった商隊の子どもが二人、氷菓を半分ずつ食べていた。代金箱は小さな硬貨を正しく受け取り、氷の精は急かさず次の客を待つ。以前のフォスは、水を飲む速度まで監視しなければならなかった。誰かの一口が多いだけで帳簿と怒号が増えた。今の店は、必要な分を出し、足りなくなれば翌日に仕込む。砂嵐で壁が削れても、夜には自分で戻る。欠けることを恐れて、今日を削る必要はない。
彼は氷の精へ店番を頼み、オアシスへ浮き輪を運んだ。水係だった頃、水は数えるものだった。今はただ、身体を預けるものだ。
売上通知を切り、冷たい水へ仰向けになる。青空がゆっくり流れても、彼は出発時刻を確かめなかった。