砂王獣の片耳

砂王獣がオアシスへ来ると、昼の市場が夜のように暗くなった。

金色の獅子身に鷹の翼、頭には黒い角。砂漠の軍を一息で埋めたという神獣だ。兵士は城壁へ弩を据え、商人たちは水瓶を置いて逃げた。

水売りのディーンは、神獣が首を振るたび砂嵐が起きるのを見ていた。

左右へ振るのではない。左だけを下にし、何度も地面へ擦ろうとしている。

水運びの駱駝も、耳へ砂虫が入ると同じ動きをする。砂王獣が翼を打つのは攻撃ではなく、耳の中の異物を振り出そうとしているからだ。だが、その風がさらに砂を巻き込み、苦しみを増やしていた。

「耳が痛いんだ」

砂王獣の左耳はぺたりと伏せ、入口に砂が固まっていた。

砂嵐を渡り続ければ、細かな砂が奥で石のようになる。ラクダにも起こる症状だ。

隊長は「近寄れば頭から食われる」と言った。

ディーンは水瓶を一つだけ選んだ。売り物の中で最も澄んだ真水だった。

神獣の前へ進み、瓶を傾けて自分の手を洗う。

「毒はない。冷たすぎもしない」

砂王獣が鼻を鳴らすと、熱風で上着がはためいた。

それでもディーンが座ったままでいると、巨体がゆっくり伏せる。左耳が彼の胸の高さまで降りた。

布を細く巻き、真水で湿らせる。

耳の入口へ詰まった砂を、外側から少しずつ崩す。神獣の爪が地面を掻くたび、兵が弩を引き絞った。

「あと一塊。動いたら奥へ入るから、我慢して」

固まりを摘み出すと、握り拳ほどの砂玉が落ちた。

中には折れた矢羽が一本混じっていた。討伐隊が以前放ったものだ。隊長が目を逸らす横で、ディーンは耳の内側をもう一度真水で拭き、傷がないことを確かめた。

砂王獣は左耳を立て、初めて両耳を同時に動かす。翼を大きく広げたが、舞い上がったのは涼しい風だけだった。

隊長が勝ち誇った顔で手綱を投げる。

神獣は尾の一振りで手綱を砂へ埋め、ディーンの前に横たわった。金の腹毛をさらし、片目だけを開けて待っている。

「そこまで面倒を見る契約?」

腹を撫でると、地の底から響くような喉鳴りが返る。

金毛は陽光を含んで熱いはずなのに、奥には井戸水を守る砂のような穏やかな温度があった。角のある頭が膝に落ち、ずしりとした信頼が彼の逃げ道を塞いだ。