祝う日の予約投稿
午前十一時、竹中亜矢はジュエリーブランドの予約投稿に、見覚えのある指輪写真を見つけた。
〈ふたりの未来が始まる日〉という文字と、笑うカップルの手元。今日の婚約フェアに合わせ、後輩が昨年の応募写真から選んだものだった。投稿は正午に公開される。
顧客管理画面には、その写真の使用同意が〈撤回済み〉とある。二週間前、女性本人から削除依頼が届き、広告利用も止めてほしいと書かれていた。後輩は写真フォルダから削除したが、予約投稿の複製データまでは見つけられなかった。
販促部長は画面を見て、「顔は写っていないし、もう制作費も払っている。公開してから差し替えればいい」と言った。
亜矢は写真の背景を拡大した。婚姻届の日付と、二人の名字が小さく写っている。知人なら誰の写真か分かる。別れたのか、事情が変わったのかを会社が推測する必要はない。使わないでほしいという意思だけで十分だった。
「予約を解除します」
亜矢は代替画像を商品だけの写真へ切り替えた。後輩には画像を探させず、同意撤回の受付から公開物まで、どこへ複製されたかを一緒に洗い出させた。店頭モニター用の動画にも同じ一枚が残っていた。
「元フォルダから消せば終わると思いました」
「コピーがある仕事は、削除も一つの制作進行。あなた一人の記憶に任せない」
亜矢は素材ごとに同意番号を付け、撤回された番号を含む予約や動画が自動で止まる仕組みを提案した。公開前の確認表には、表現や誤字だけでなく、同意が現在も有効かを確かめる欄を加えた。
正午、商品だけの投稿が公開された。数字は当初予測より伸びなかったが、削除依頼をした女性へ、写真が使われていないことを確認して連絡できた。返信は〈確認しました。ありがとうございます〉の一行だけだった。祝福の言葉を作る会社なら、祝われたくない日を選ぶ権利も守るべきだと亜矢は思った。後輩は公開数の表ではなく、停止できた素材の一覧を完成させた。
部長は亜矢へ、今後は慎重すぎる判断を広報責任者へ通すよう命じた。亜矢は返事をせず、開いていた採用通知を読み直した。利用者の権利管理を専門にする企業から届いたものだった。
亜矢は承諾ボタンを押し、退職届を送信した。