票を持って逃げる
常盤木泉水は、芝原豪の掌から青い投票石を奪い、自分の赤い石を押しつけた。
皆川依吹が声を上げる。
「投票はもう終わってる!」
「だから石を交換した」
三人は、卓上の候補へ触れることで投票先を石に記録した。赤、青、白の投票石には、誰へ投じたかが暗号化されている。
規則は一行。
〈集計時、裏切り者を指す投票石を所持する人物を解放する〉
主催者は投票者ではなく、石の所持者と書いた。にもかかわらず豪は、自分が正解した証拠だと信じて青い石を見せびらかした。
「俺は依吹へ入れた。あいつが裏切り者だ」
泉水も同じ結論だった。依吹が役職札を伏せた瞬間、鏡張りの天井に黒い印が映ったからだ。ただし泉水自身は、豪を油断させるため豪へ投票し、赤い石には誤った宛先が入っている。
豪は正解を確信し、泉水へ握手を求めた。
「負けを認めるなら、最後くらい仲直りしよう」
泉水は右手を出し、左手で石を交換した。豪は勝者の余裕から、指を閉じるのが一拍遅れた。
『投票石の窃取は、投票結果の改竄です』
「中身は一切変えてない。青い石は今も依吹を指している」
『その票を投じたのは芝原豪です』
「規則が解放するのは、投じた者ではなく所持する人物」
残り三秒。豪が飛びかかる。泉水は青い石を口へ入れ、頬の内側へ隠した。奪い返すには彼女を傷つけなければならず、豪は一瞬ためらう。
その一瞬で鐘が鳴った。
〈裏切り者、皆川依吹〉
〈該当投票石、青〉
〈所持者、常盤木泉水〉
首輪が外れる。泉水は石を吐き出し、袖で拭いた。
豪は赤い石を握り潰そうとするが、内部記録は彼自身への誤投票を示した。
「正解を奪っただけじゃないか」
「そう。頭脳戦では、答えを知ることと、勝利条件を持つことは別」
泉水は青い石を投票箱へ戻した。
「見せびらかした時点で、あなたは票より先に勝利を手放したのよ」
出口の扉が、青い光を一度だけ反射した。