空っぽの魔力瓶
魔法学院の団体実技で、首席班の魔力瓶はすべて空だった。
「砲撃術、発射!」
班長リュガが杖を振る。五本の補助瓶が淡く光り、そのまま消えた。標的の土人形は無傷で立っている。
「昨日、満充填にしたはずだぞ!」
瓶には確かに満充填の札が貼られていた。ただし、その札は三日前のものだった。
荷物持ちのビトは毎晩、使った瓶の札を裏返し、残量順に充填台へ移していた。自然放電の早い瓶には赤い輪、ひびのある瓶には黒い輪。試験当日は、最も新しく満たした五本だけを箱の上段へ置く。
だが首席班は、彼を「魔法を撃てず、瓶を数えるだけ」と追放した。新しい係は見栄えよく瓶を磨き、札の日付を確かめず箱へ戻した。
「予備を出せ!」
予備箱も空だった。充填済みと未充填を同じ棚へ並べたからだ。
観覧席では下級班が小さな火球を命中させ、首席班だけが沈黙する。リュガは杖を何度振っても、空瓶同士が箱の中で乾いた音を立てるだけだった。最初の課題で失格の鐘が鳴った。
そのころビトは、学院図書塔の地下実験室にいた。
「青札は今夜まで、白札は明朝まで。赤輪は観測専用です」
司書魔術師アルセアが無作為に一本選び、測定器へ接続する。札に書かれた残量と、針の示す数値は寸分違わなかった。
「研究記録が狂っていたのは、術式ではなく瓶の状態を揃えていなかったせいか」
ビトの管理で、十年間再現できなかった実験が一度で成功した。同じ残量、同じ経過時間の瓶を揃えたことで、術式の誤差が初めて消えたのだ。アルセアは彼の名を論文の共同研究者欄へ書く。
「君は魔力を出せなくても、魔力を同じ条件で出させられる。今日から魔導資源管理士だ」
試験終了後、リュガが実験室へ押しかけた。
「ビト、戻れ。次の再試験までに全瓶を満たせ。班員へ戻してやる」
「戻してやる?」
「首席班に必要だと言っているんだ。光栄に思え」
ビトは共同研究契約へ署名し、乾いたインクを見届けた。
「追放決議が採択された時点で、首席班との資源管理契約は終了しています」