竜炉心は誰のものでもない
火山工房で造られた竜人兵ラグは、空を飛ぶたび寿命を削られていた。
胸の竜炉心に赤い所有楔が刺さり、工房主が命令すると出力限界が外れる。戦場では城壁を溶かす炎となるが、帰還する頃には鱗が何枚も灰になった。
工房主が死ぬと、弟子のバシュラが楔を相続した。
軍務官は笑顔で契約箱を差し出す。
「名を刻め。竜人一体で小国が買える」
ラグは鎖につながれていない。だが楔がある限り、新しい所有者の登録場所から三歩以上離れられなかった。
「登録をお願いします」
「嫌だと言ったら?」
「未登録の楔は七日後に炉心を閉鎖します」
それは選択ではなく、時間をかけた処刑だった。
バシュラは師の工具箱から、楔抜きの鉗子を探した。軍務官が腕をつかむ。
「抜けば炉心が暴走する。お前の名へ書き換えれば安全だ」
「安全なのは所有者だけでしょう」
彼女は契約箱を蹴り閉じ、ラグの胸へ鉗子を差し込んだ。
楔を半分抜くと炎が噴き、工房の窓がすべて割れた。ラグは苦しみながらもバシュラを庇おうとする。古い護衛命令がまだ残っているのだ。
「動かないで。これは命令じゃなく、お願い」
「違いを解析できません」
「断っても罰がないのがお願いよ」
ラグは初めて彼女の腕を振り払い、自分で鉗子を握った。
二人で楔を引き抜く。
竜炉心が轟き、赤い火柱が天井を貫いた。軍務官は逃げ出した。だが炎はやがて金色へ変わり、ラグの胸で静かな鼓動になる。
バシュラは所有楔を金床へ置き、槌で粉々にした。
「空へ行って。もう三歩じゃない」
ラグは翼を広げ、火口の上へ飛び立った。雲を越え、点になるまで戻らなかった。
七日目。軍が工房を接収しに来た。
「竜人を失った責任を取れ」
扉が炎風で開く。
ラグが降り立ち、軍の槍を一吠えで溶かした。ただし兵には傷一つつけない。
彼は胸から最も大きな鱗を一枚外し、バシュラの作業台へ置いた。
「世界を一周しました。誰の声も炉心を閉じませんでした」
「なら、自由ね」
「はい。その自由で、この工房の相棒を選びます」
鱗には所有紋ではなく、対等な二つの槌印がラグ自身の爪で刻まれていた。