紫留めの外套

帝都の青銅門前で、近衛長ルカン・ヴァロは紫外套の留め具を卓へ置いた。

双頭の鷲を刻んだ金具。皇帝の外套から外せる者は、皇帝本人か、その首を取った者だけだった。

包囲軍の将軍バシルは指先で金具を回した。

「本物だな」

「今夜の舞踏会で、皇帝セヴェルが私に貸した」

「なぜ」

「肩の留め具が壊れたと言った。陛下は部下の服装には寛大だ」

ルカンは嘘をついた。

留め具は寝台の脇から盗んだ。皇帝は今、地下礼拝堂で反対派の名簿を読んでいる。夜明けまでに元老、商人、軍人合わせて百六十人が捕らえられる。包囲軍と通じた罪で。

名簿を書いたのはルカンだった。

無実の名を混ぜ、空いた屋敷と役職を自分の仲間へ配る予定だった。ところが皇帝は、最後にルカンの名も加えた。粛清を考えた者は、粛清の手口を知りすぎている。

忠臣が主を裏切ったのではない。二人の裏切り者が、半歩の差で競っているだけだった。

「この留め具を青銅門の守兵へ見せる」とバシルが言う。「皇帝が城外へ逃れ、門を開けよとの命令だと伝える」

「守兵は信じる」

「おまえが同行すれば、より確かだ」

「私はここに残る」

バシルが笑った。

「報酬が欲しいのだろう。新政権の財務長官」

「約束では」

「約束はした。生きて就けるとは言っていない」

天幕の外で剣が鞘を擦った。ルカンの背後に、敵兵が二人立つ。

彼は驚かなかった。自分なら同じことをする。

「では、一つ教えよう」とルカンは言った。「留め具の針を抜いてみろ」

バシルが金具を裏返し、細い針を引いた。中から紫に染めた小紙が出る。皇帝直筆の非常命令だった。

――双頭鷲の印を持つ者に、青銅門の指揮を委ねる。

歴代皇帝が暗殺を恐れ、外套へ隠してきた命令だ。セヴェル自身も存在を忘れている。

「これなら、私が同行する必要はない」

ルカンは言った。

バシルは小紙を読み、敵兵へ頷いた。

「この男を殺すのは門が開いてからだ」

「賢明だ」

ルカンは杯の酒を飲んだ。毒が入っていても構わなかった。勝者になる気は、もうない。ただセヴェルより一呼吸長く生きればよい。

ほどなく青銅門の塔で紫灯が上がった。

双頭鷲の留め具が守兵へ渡り、帝都の重い門が内側から開き始めた。