終電後のホーム

駅員の栄悟は、終電後のホームで猫を見ることがある。

線路へ下りるわけではなく、使われていない端のベンチで眠っている。茶色い長毛で、首輪がある。駅前の酒店の猫「琥珀」だと聞いた。

終電が出ると、栄悟はホームを点検する。空き缶、落とし物、濡れた新聞。琥珀はその後ろを一定の距離でついてくる。

「店へ帰れ」

言っても欠伸をする。

十二月の夜、雪がちらついた。ベンチは冷え、琥珀の毛にも白い粒がつく。

栄悟は詰所から古い座布団を持ってきた。忘れ物で、保管期限を過ぎたものだ。ホームの屋根下へ敷くと、琥珀は匂いを確かめて座った。

点検を終え、栄悟も隣へ腰掛けた。列車のない線路は静かで、遠くの踏切だけが点滅している。

琥珀の背へ手を置くと、長い毛の奥に熱があった。酒店の木箱と、少し甘い酒粕の匂いがする。

翌朝、始発前には猫はいなくなっていた。座布団に丸い毛の跡だけが残る。

酒店の主人が酒瓶を届けに駅へ来たので、夜のことを話した。

「夜回りのつもりなんですよ、あいつ」

その晩も琥珀は来た。栄悟は座布団を出し、自分用の温かい缶茶を開ける。

ホームには電車の匂いがなく、雪と鉄と酒粕の香りだけがあった。終電後の駅を二人で見回る時間は、時刻表のどこにも載っていなかった。

春になると、座布団は酒店へ返した。毛だらけになっていたが、主人は笑って店の木箱へ敷いた。琥珀は昼はそこで眠り、夜になると駅へ向かう。栄悟はホームへ代わりの古い膝掛けを置いた。終電後、猫はその上に座り、酒粕の匂いを少しずつ移した。始発前に畳むと、毛の間へ夜の冷気が挟まっている。缶茶を両手で持ち、栄悟は遠くの信号が青へ変わるのを猫と待った。

琥珀は茶の缶を一度嗅ぎ、興味をなくして線路を見た。風が吹くと長い毛が揺れる。栄悟は膝掛けの端を押さえ、始発まで残る温度を逃がさないようにした。

猫の髭に、朝の青い光が触れた。