結び目は対象外

竜胆マコラの大剣が、巨人ネムドを縛る黒鎖に弾かれた。

《永劫鎖》

鎖本体は破壊・切断・移動不能。

固定具、留め金、結び目は鎖本体に含みません。

攻略隊は三日間、最強武器で鎖を斬ろうとして一傷もつけられなかった。ネムドは敵として暴れ、鎖の届く範囲へ入った者を殴り続ける。

「鎖が切れないなら、巨人を倒す!」

隊長が叫ぶ。

マコラは鎖ではなく、地面の杭へ目を向けた。黒鎖は杭に複雑な結び目で固定されている。

彼女は初心者用の小刀を抜き、結び目の間へ差し込んだ。

「何を遊んでる!」

一本目の縄目がほどける。鎖自体にはダメージゼロ。だが結び目は耐久値五の通常オブジェクトだった。

ネムドが拳を振るう。マコラは杭の陰へ潜り、二つ目を切る。

巨人の攻撃範囲が広がる。仲間たちは裏切りだと怒鳴る。拘束を解けば、全滅すると思っている。

最後の留め金が外れた。

ネムドは自由になり、拳を高く上げる。

だが殴ったのは攻略隊ではなく、鎖を伸ばしていた地下の制御塔だった。巨人は自分を操る命令源を叩き潰す。

黒鎖は壊れないまま地面へ落ちた。誰にもつながっていなければ、ただの重い金属だ。

ネムドはマコラへ膝をつく。敵性表示が消える。

「鎖を壊していない。攻略失敗だ」と隊長が呟く。

マコラは結び目の切れ端を見せた。

「壊せない物を壊す必要はない。つながってる所だけ外せばいい」

《永劫鎖本体:損傷なし》

《固定具七か所を解除》

解放されたネムドは、落ちた永劫鎖を山の入口へ運んだ。壊せない性質を利用し、今度は崩落を防ぐ橋の支柱にするという。

同じ鎖でも、誰かへ結べば拘束になり、地面と地面を結べば道になる。

マコラは切った結び目を捨てない。強固だったのは鎖の材質ではなく、誰も説明の「対象外」を読まず、壊せない部分だけを攻撃し続けた思い込みだったと示すためだ。

橋が完成した日、ネムドは最初にマコラを渡らせた。拘束を外した小刀は、橋のたもとへ飾られた。

《巨人討伐を中止――不壊の鎖は牢獄そのものではなく、誰かへ結ばれている間だけ支配でした》