聖剣の所有者は私です
月島直哉が召喚された王城では、鑑定と聖剣選定が同時に行われていた。
中央の岩へ刺さった白銀の剣を抜ければ勇者。抜けなくても能力値が高ければ将軍候補。そんな分かりやすい式だ。
直哉が鑑定石へ手を置くと、《魔力0》だけが浮かんだ。
「魔力ゼロ。聖剣どころか、その鞘にも触れる資格はない」
剣守卿が笑い、立入線の外へ追いやろうとする。
直哉には、自分の掌にだけ一行が見えていた。
《絶対所有》
所有者の定まらない対象ひとつを、自分のものとして確定する。
聖剣は千年間、誰にも抜けていない。王も剣守卿も「王国のもの」と呼ぶが、鑑定表示には《所有者・未設定》とある。
次の候補者が柄を握った。剣は動かない。剣守卿はまた失望し、直哉へ退出を命じた。
「その剣、本当に誰かを選ぶんですか」
「無礼者。聖剣が認めた者だけが所有できる」
「逆では?」
直哉は立入線の外から、剣へ手を向けた。
「所有するから、認めさせるんです」
一度だけ《絶対所有》を使う。
岩が割れた。
直哉は剣に触れていない。にもかかわらず白銀の刃が自ら抜け、一直線に大広間を飛ぶ。騎士たちが身構える間もなく、柄が直哉の掌へ収まった。
同時に王城全体が鳴動する。
聖剣は城の防衛結界を起動する鍵でもあった。千年止まっていた塔の紋章が一斉に灯り、外壁に光の翼が広がる。宝物庫の扉、王家の印章、国境の砦まで、所有権の変更を告げる鐘を鳴らした。
《所有者:月島直哉》
《管理権限:王権より上位》
《王城防衛機構、主へ接続》
剣守卿が顔色を変え、奪おうと一歩踏み出す。
聖剣がひとりでに刃を返した。
その切っ先は剣守卿の喉ではなく、床を示す。跪けという古い作法だった。
玉座の王が最初に立ち上がり、胸へ手を当てて礼を取る。続いて騎士団、神官、勇者候補が姿勢を正した。
直哉は聖剣を軽く持ち上げた。重さは、使い慣れた傘ほどしかない。
彼を立入線の外へ追い出そうとした衛兵たちは、今度はその線を消すため、競うように床を磨き始めていた。