背信値二倍
錫木ホクトの剣が団長の腕を掠めた瞬間、頭上へ赤い数字が出た。
《背信値》
ギルド員へ与えたダメージを蓄積します。
ギルド脱退時、蓄積値の二倍を本人へ与えます。
「見たか! こいつが裏切り者だ!」
団長は、捕らえたNPCの少女を盾にしていた。ホクトが鎖を切ろうと振った剣を、わざと腕で受けたのだ。
《背信値:12》
団長は除名操作を開く。強制脱退でも二倍ダメージが発生する。ホクトのHPは二十。除名されれば死ぬ。
「謝って少女を処刑しろ。そうすれば残してやる」
仲間たちは目を逸らす。団長は以前から、命令に逆らう者へ少量のダメージを当てさせ、背信値を人質にしていた。
ホクトは剣を捨てた。
「分かった。脱退する」
自分でボタンを押す。団長が笑う。
《背信値二十四ダメージ》
HPはゼロにならなかった。少女が彼の腕へ回復符を貼っていたからだ。残り一。
ギルド外になったホクトは、団長へ攻撃できる。だが斬らず、少女の鎖だけを切る。
団長が追撃しようと一歩出たとき、彼の頭上にも背信値が表示された。
《背信値:486》
仲間を脅すために与えた細かなダメージが、すべて蓄積していた。団長は戦闘中だけギルドを抜け、外部の報酬を独占する契約を結んでいる。契約時刻になり、自動脱退が実行された。
九百七十二ダメージ。
団長が倒れる。ホクトの十二は裏切りの証ではなく、少女を救うために受け入れた傷だった。
《ギルドマスター自動脱退》
《背信値精算完了》
倒れた団長は、仲間へ与えた四百八十六を「訓練」と呼んだ。軽い一撃なら暴力ではない、死なせていない、と。
少女はホクトの背信値十二へ触れる。
「これは私の鎖を切る途中でついた数字です」
同じ値でも、傷つける目的と救う途中の接触は違う。システムはそこまで読めず、どちらも背信と数えた。
だから最後のメッセージは判定を訂正したのだ。
ホクトは赤い印を消さず残した。数値だけで人を裏切り者にしないため、十二が何のためだったかを語れる証拠として。
《裏切りを再定義――仲間へ一度刃が触れた者ではなく、仲間を従わせるため小さな傷を積み上げた者》