苔羊原の六日毛布

苔庭フミの丘は、六日ごとに緑の毛布を生む。

羊の形をした岩へ苔が厚く育ち、六日目の朝になると、表面だけがふわりと剥がれて一枚の布になる。風の小人が洗い、陽光が乾かし、丘下の救護院へ定期便で送る。岩羊はまた薄い苔へ戻り、次の六日を静かに待つ。

フミは軍の洗濯舎で働いていた。

灰色の制服は洗剤で色が抜け、手首には冷水で割れた跡が残る。負傷兵が増えるたび毛布も包帯も山になり、「急げ」の札が夜中まで吊られた。辞めた後も舎監からの未読通信が消えない。

六日目の午後、領地帳が鳴った。

〈苔毛布二十四枚、救護院へ納品済み。定期契約収益を入金しました〉

フミは金額より、丘に残った一枚を見た。不良品ではない。領主の生活用として、毎回一枚だけ自動で取り置かれる決まりだった。

取り置きの一枚には、売り物の印も救護所の番号もなかった。フミはそれを見て少し戸惑った。軍では、番号のない布は存在しないのと同じだったからだ。けれど毛布は、誰に配るか決まっていなくても暖かい。彼女は指を広げ、柔らかな苔へ沈めた。役に立つ先を証明しなくても、自分のために使ってよい物がある。その感触がひび割れた手へゆっくり戻ってきた。

そのとき舎監から呼出しが来た。

『冬支度が遅れている。今夜から洗濯舎へ戻れ』

「毛布なら救護院へ二十四枚届きました」

『足りん。お前がいれば倍洗える』

「私は倍、眠れなくなります」

『働ける者が働かなくてどうする。給金は上げる』

フミは取り置きの毛布へ頬を当てた。陽の匂いがする。洗濯舎では、きれいにした毛布を自分が使うことはなかった。

「今まで十分働きました。今夜は、この一枚を使います」

『命令を断るのか』

「命令を受ける仕事を辞めました」

通信を切り、領地帳を六日後まで消音にする。

岩羊たちは薄い緑の背を夕日に向けていた。フミは丘のくぼみに寝転び、苔毛布を首まで掛ける。

まだ日も沈んでいないのに瞼が重い。早寝を叱る者は、もうこの丘にはいなかった。