荷札を剥がす手

高級化粧品倉庫では、箱の封より荷札のほうが厳しく見られる。午前一時、藪内奈々は輸出便の荷札を剥がしている作業員を見つけた。

「手を止めてください」

声をかけられた男は、剥がした紙を握りつぶした。箱は限定品で、シリアル管理されている。盗難や行き先の付け替えを疑えば、出荷を全部止めるしかない。

男は「間違えたから直していた」と言った。だが作業指示に訂正はない。主任は警備を呼ぼうとした。

奈々は剥がされた荷札を開いた。宛先はシンガポール、箱に残った薄い糊跡の向きも同じ。別の国へ変えようとした形ではない。端の数字だけが二重に印刷され、読めなくなっていた。

同じ時刻に出た荷札を検品台へ集める。十枚に一枚ほど、印字がずれている。プリンターの故障なら連続するはずなのに、間隔が一定ではない。奈々は作業員の手元を見た。手袋の指先が湿っている。

輸出品は封緘後、冷えた保管室から暖かい梱包場へ移される。箱の表面に薄い結露が生じ、その上へ荷札を貼ると、ローラーが滑って紙がずれる。男は読めない荷札を見つけ、申告せず剥がしていた。止めれば自分の作業遅れになると思ったのだ。

「剥がしたことより、黙って貼り直すほうが危ないです。シリアルと宛先の対応が切れます」

奈々は警備を呼ばず、対象箱を時刻で絞った。結露が出た十五分間の箱だけを止め、シリアルを読み直す。箱は乾いた布で拭き、表面温度が上がってから新しい荷札を貼った。古い荷札は捨てず、無効印を押して記録へ添える。

さらに、保管室から出した箱をすぐ貼付台へ置かず、送風棚で五分待つ手順へ変えた。急いで貼るほど、あとで全数確認が必要になる。

午前三時前、輸出便は一箱も行方不明にせず封を閉じた。主任は警備への内線を戻し、男は握りつぶした荷札を伸ばして奈々へ渡した。

「次は、剥がす前に呼びます」

奈々がうなずくと、国内便のプリンターが紙切れを告げた。送風棚には、次の冷たい箱が並び始めていた。