葬儀で故人が返事した
鵜殿家の葬儀で、喪主が棺へ呼びかけた。
「父さん、聞こえるか」
棺の中から、
「聞こえる」
と返事がした。
参列者は一斉に後ずさった。
喪主の章李は僧侶を見る。
「読経で戻った?」
僧侶は葬儀社を見る。
「棺の設備では」
葬儀社は家族を見る。
「故人様の未練でしょう」
家族全員が互いを見る。
「誰への未練?」
「遺産を均等にしなかった長男へ」
「介護を任せきりにした次女へ」
「借金を隠した叔父へ」
「死者の口を使って告発し合わないで!」
棺からまた声がした。
「寒い」
章李は葬儀社をにらむ。
「保冷剤を入れすぎた?」
「規定量です」
僧侶が言う。
「魂が身体へ戻りかけている」
次女は章李へ言う。
「救急車を」
叔父は止める。
「死亡診断書が」
「書類より父さんでしょう」
「相続手続きが全部やり直しに」
「今、損得が出た!」
僧侶は数珠を握り直した。
「もし蘇生なら、読経を中断します」
葬儀社は時計を見る。
「火葬場の予約変更が必要です」
次女が怒る。
「父さんが生き返るかもしれない時に予定表?」
「生き返った場合の手続きも当社では初めてで」
叔父は小声で言う。
「香典は返すのか」
章李がにらむ。
「一番先に気にするのがそこ?」
「参列者への礼儀だ」
「財布への礼儀でしょう」
章李が棺の蓋へ手をかける。
「父さん、生きてるなら返事を」
「返事を」
同じ声が繰り返した。
参列者の一人が叫ぶ。
「言葉を真似してる」
「死後にオウム返し?」
「父さん、生前から人の話を聞かなかったから」
「死後も性格を悪く言わないで」
葬儀社が慎重に蓋を開けた。
故人は静かに横たわっている。胸元のポケットから、小型の録音機が落ちた。
章李の息子が青ざめる。
「おじいちゃんの声を保存したくて、昨日、会話できるAI玩具をポケットに入れた」
玩具は周囲の言葉を短く繰り返し、温度が下がると「寒い」と発声する製品だった。
叔父が胸をなで下ろす。
「では遺産の話は聞いてない?」
玩具が答えた。
「借金を隠した叔父」
会場が静まる。
叔父は息子を見る。
「それも覚えさせたのか」
「さっき聞いて学習したみたい」
故人は何も語らなかった。
それでも葬儀で一番多く白状したのは、生きている親族だった。