解雇時刻十二時

三門信矢は毎朝、建設会社の作業用身体へ接続する。高所で風に煽られても揺れない脚、二百キロを持てる腕。筋萎縮した本体ではベッドから起きられないが、社員である限り身体は会社が貸してくれた。

兄の康丈も同じ現場で働いていた。

昼前、建設中の高架が崩れた。

康丈の身体はコンクリート板の下へ挟まれた。信矢は瓦礫をどかし、兄を背負おうとした。

視界に人事通知が開く。

《業績調整のため、十二時をもって雇用契約を終了します》

《貸出身体は契約終了と同時に停止します》

時刻は十一時五十八分。

会社支給の身体は、解雇された瞬間に返却状態になる。現場や利用者の状況は考慮しない。それが契約の一つだけの規則だった。

信矢は監督へ叫んだ。

「あと十分延ばせ!」

「人事処理は本社だ」

「兄貴が下にいる」

「救助班が向かってる」

到着予定は十五分後。

康丈が咳き込む。

「お前だけ行け」

「二分あれば出せる」

信矢は背中へ兄を載せ、足場を進んだ。

《11:59:10》

高架の出口まで四十メートル。

身体の筋力なら間に合う。信矢は走った。

《11:59:40》

康丈の腕が首から滑る。信矢は片手でつかみ直す。

「退職金、俺より多いかな」

兄が笑う。

「黙ってろ」

《11:59:55》

出口まで五メートル。

正午。

信矢の身体が直立したまま停止した。

意識は会社の保管槽へ戻される。瞼を開くと、本体の細い腕が毛布の上にある。指一本動かせない。

現場映像だけが端末に流れた。

停止した作業用身体は、康丈を背負ったままバランスを失い、崩れた高架の縁から落ちた。

映像が切れる。

人事通知の下に返却確認が表示された。

《貸出身体に落下損傷を確認》

《退職金から修理費を控除します》

信矢は音声入力で兄の安否を尋ねた。

《元社員には現場情報を開示できません》

十分後、ニュース速報が出た。

《高架崩落事故、作業員一名死亡》

一名が誰かは書かれていない。

信矢の社員証も、康丈の連絡先も、正午に同時削除されていた。

翌朝、会社の求人広告が画面に流れた。

『身体がなくても、働く意志があれば大丈夫』

背景では、修理された作業用身体が別の社員を背負い、同じ高架を歩いていた。