許しの入力欄

倉成景吾の端末には、毎年同じ日に入力欄が届いた。

《加害者の反省を一から五で評価してください》

十二年前、飲酒運転の車が景吾の妻を奪った。運転手は矯正施設で模範的に暮らし、信用点を回復させていた。被害者である景吾が四以上をつければ、仮釈放が認められる。

最初の年、景吾は一を押した。次の年も一。そのたび運転手から、AIが整えた謝罪動画が届いた。

「あなたの苦しみを理解しています」

理解しているはずがない、と景吾は思った。妻の歯ブラシを捨てられない朝も、二人分の味噌汁を作ってしまう夜も、採点項目にはなかった。

五年目から、景吾の低評価は《報復感情の固着》と判定され、自身の信用点まで下がり始めた。心理支援住宅の家賃補助も、「回復への協力不足」を理由に減らされた。

社会は彼に、許すか、許さない人間として罰を受けるかを選ばせていた。

十二年目の面談で、運転手は画面越しに言った。

「何点なら、あなたは楽になりますか」

景吾は初めて、相手もまた、自分の指先に人生をつながれていることに気づいた。それは赦しではなかった。二人を事故の日へ縛り続ける別の刑だった。

景吾は一も五も押さず、自由記入欄に書いた。

――この人の未来を決める仕事を、私にさせないでください。私の悲しみは、信用評価ではありません。

システムは入力不備を警告した。景吾は提出を繰り返し、最終的に被害者協力制度から離脱した。補助金と高信用区の住居を失った。

運転手が釈放されたかどうか、景吾は調べなかった。

海の近くの古い町へ移り、妻が好きだった陶芸を始めた。初めて焼いた器は歪み、縁が欠けた。評価端末なら廃棄を勧めただろう。

景吾はその器で味噌汁を飲んだ。一人分だけ作ることにも、少しずつ慣れた。

許したわけではない。忘れたわけでもない。ただ、誰かの点数を押すために生きるのをやめた日から、彼の時間はようやく事故の翌日へ進み始めた。

欠けた縁に指が触れるたび、妻の笑い方だけは鮮明に戻った。