試験前の焦がしおにぎり

魔法学院前の食堂《火止まり》は、豪華な術師料理を出さない。店主フウカの品は《焦がしおにぎり》一つだけ。炭火で表面を焼き、塩を振っただけだ。

実技試験の朝、受験生ベリオが飛び込んできた。両手の指から青い火花が絶えず散り、扉の取っ手を焦がす。

魔力が多すぎる者に起こる《前夜あふれ》。緊張するほど力が指先へ集まり、杖を握れば暴発する。去年は測定器を壊して失格。今年もあと半刻で試験が始まる。

「抑制薬は飲んだ。でも、効かない」

彼は両手を脇へ押しつけ、何にも触れないように立っていた。腹も空いているが、金属の匙なら溶かし、木の器なら燃やす。

フウカは炭火から、三角の《焦がしおにぎり》を一つ取り出した。海苔も具もない。表面は硬く焼け、ところどころ黒い。

「両手で持って」

「燃えるぞ」

「燃やしていい料理です」

ベリオが恐る恐る挟むと、青い火花が焼き目へ吸い込まれた。ぱちぱちと小さな音がし、黒い焦げが一瞬だけ青く光る。米は崩れず、余分な魔力だけを炭の層が受け止めた。

一口かじる。硬い表面の内側から、白い米の湯気が上がる。焦げの苦み、塩の粒、噛むたびに戻る温かさ。指から散っていた火花は、二口目で半分になった。

「手を見るな。味を数えて」

「焦げ、塩、米……」

「それだけでいい」

三口目。ベリオの呼吸が試験鐘と同じ速さから、炭火の揺れと同じ速さへ落ちる。最後の角を食べたとき、青い火花は消えていた。

彼は試すように卓の木札を持ち上げる。焦げ跡はつかない。腰の杖を握っても、先端に静かな青い光が一粒灯るだけだった。

「止まった」

「消えたんじゃない。握れる場所へ戻ったの」

ベリオは銅貨を置き、試験棟へ走った。

昼過ぎ、学院の鐘が合格者の数だけ鳴る。《火止まり》の鈴は、その最後の一音と重なった。ベリオが新品の青い徽章をつけて立っている。

「測定器は壊さなかった?」

「壊さず、最高値を出した」

彼は焦がしおにぎり代の銅貨をもう一枚置き、さらに袋いっぱいの受験票を卓へ並べた。

「来年の試験日、朝一番で百個。後輩には、力を減らさず握る方法を食べさせたい」