誕生日の一斉送信
野乃香の誕生日、零時ちょうどに家族グループが鳴った。
母 おめでとう!二十八歳、そろそろいい報告も待ってます
父 おめでとう
姉 おめでとー
毎年同じ順番だった。母の文には、結婚、転職、孫、貯金のどれかが必ず添えられる。祝われるたび、まだ足りないと採点される。
野乃香は翌夜、小さなケーキを一つ買った。ろうそくは立てず、箱のままテーブルに置く。母から電話が来る。
「グループに返事がないけど、見た?」
「見たよ」
「みんな祝ってるんだから、ありがとうくらい」
「ありがとうは言いたい。でも、いい報告を待ってるって書かれるのは嫌」
母は笑った。「冗談じゃない。家族しか言えないことよ」
「家族だから、誕生日に足りないものを数えないでほしい」
電話の向こうで、母がいつもの呼び方をした。「のんちゃんは昔から真面目に受け取りすぎ」
野乃香はその幼い愛称を聞くと、家族の食卓で一番小さな皿を与えられていたころへ戻る。何を言っても、末っ子の拗ねとして処理された。
「今は野乃香って呼んで」
「急にどうしたの」
「誕生日だから。今日から変えたい」
母は不満そうに息を吐いた。野乃香は通話を切らず、家族グループへ書く。
野乃香 お祝いはうれしいです
野乃香 年齢に結婚や仕事の宿題をつけないでください
野乃香 呼び名は野乃香でお願いします
姉が先に「了解、野乃香」と返した。父も「誕生日おめでとう、野乃香」と打ち直す。母はしばらく無言だった。
「みんなの前で言わなくても」と母がつぶやく。
「みんなの前で言われたから、みんなの前で返したの」
電話を終え、野乃香はケーキを箱から出した。母から届いた追伸は、謝罪ではなく「来年から気をつけます」だった。
野乃香はそれにハートを返さず、姉と父の文にだけ一つずつ礼を送った。母には翌朝、個別に「読んだよ」と返すつもりだった。
一斉送信の中で薄まっていた自分の名前を、フォークの先で確かめるように、彼女は最初の一口を食べた。ろうそくがなくても、誰かの期待を吹き消す必要のない誕生日になった。