謝罪文を添削する人
美冬の大学時代のいじめが、匿名アカウントに告発された。
〈毎日、廊下で笑われた〉
〈持ち物を隠された〉
〈謝ってほしい〉
美冬は泣きながら私に相談した。卒業後も、失敗するたび最初に電話をくれる。私は文章を書く仕事をしている。炎上を広げない謝罪文を作るくらい、親友なら当然だ。
大学時代も同じだった。美冬が余計なことを言わないよう、友人への返信やゼミの発表原稿を私が直した。彼女は人に流されやすいから、正しい言葉を与える必要があった。
最初の下書きにあった「私たち」を「私」に変えた。廊下の場所と、主導した人の名前も削った。
「どうして消すの?」
「関係ない人まで巻き込むと、反省してないと思われるから」
告発者との連絡も私が引き受けた。美冬は言葉が弱く、余計なことを話してしまう。私は匿名の相手へ、詳細を公開すれば法的措置もあり得ると伝えた。相手が〈あなたは誰ですか〉と尋ねたので、支援者だとだけ答えた。
美冬は何度も「乃絵ちゃんのことも書くべきじゃない?」と聞いた。私は、その一文を入れれば責任逃れに見えると説明した。美冬は納得しなかったが、私が送った完成稿を三度読み、最後には「分かった」と答えた。昔と同じ返事だった。
私は首を振った。中心にいたのは美冬だ。私は止められなかっただけ。そう記憶していた。
公開当日、美冬は私が直した謝罪文を投稿しなかった。
代わりに、最初の下書きがそのまま載った。
〈私たちは、乃絵の指示で彼女の鞄を隠しました。笑わないと次は自分だと言われました。私は加害者で、同時に臆病な共犯者でした〉
告発者から届いた音声も添えられていた。私の声で、順番や隠し場所を決めている。
「どうして」
電話の向こうで、美冬は静かだった。
「ずっと私だけが悪いと思わせたよね。今回もそうするつもりだった」
私は彼女を守ろうとしただけだ。言葉を整え、責任を一つにしたほうが、早く終わる。
けれど公開された謝罪文で、唯一削除されていなかったのは、私の名前だった。