返却口の向こう
午後十一時、閉館した市立図書館で防犯ゲートが鳴った。
警備員の倉科岳人が玄関へ行くと、人影はなく、返却口の奥から十二秒おきに鈍い音がした。自動返却機のベルトが動くたび、何かがつかえている。
当直職員は細い隙間へ手を入れようとした。
「本を引けば止まります」
倉科は非常停止を押し、返却口の外側を立入禁止にした。
「引いた先が見えません。金具なら指も本も切れます」
機械は玄関から地下の仕分け室へ続き、その途中が書庫の防犯ゲート脇を通る。つかえた物が前後するたび、ゲートの線を横切って警報を出していた。
倉科は玄関と地下の間に同僚を立たせた。警報を調べる全員が地下へ降りれば、玄関の異常を装った侵入だった場合に入口が空になる。原因が機械と決まるまでは、二つの可能性を残す。
二人は地下へ回り、点検扉を開けた。ベルトには大型の革表紙が斜めに挟まり、真鍮の留め具が側板へ食い込んでいる。無理に前へ送れば表紙が裂け、後ろから来る本も押し潰される。
倉科は先に返却口を閉鎖し、入口へ手書きの案内を出した。次にベルトを逆転させるのではなく、後続の本を一冊ずつ取り除いて圧力を抜く。職員が留め具を布で包み、二人で本を水平に戻した。
革表紙の中身は、貸出用ではない古い地図帳だった。寄贈資料の整理中、別の箱へ入れるはずのものを利用者用返却口へ落としたらしい。書庫から持ち出された記録がないため、盗難に見えるところだった。
倉科は警報を単なる機械詰まりで処理せず、地図帳を確認袋へ入れ、発見位置と時刻を職員と確認した。自動返却機は大型資料を受け付けない設定だったが、投入口の幅だけは通ってしまう。翌朝まで、返却口の手前へ寸法板を置くことになった。
警報が止まると、地下は紙のにおいだけになった。
午前五時、新聞閲覧室の早朝開館準備が始まる。倉科が玄関へ戻ると、返却口の前にはすでに三人が本を抱えて待っていた。
彼は封印を外さず、一冊ずつ手で受け取る机を出した。機械が眠っている間も、本は次々に帰ってきた。